高齢出産でようやく子供を授かった奥さんは、おそらく最初で最後の出産になるためにどうしても助産院で子供を出産したかったのですが、仕事のストレスや、冷えから胎位異常になりました。
切迫早産しそうになり、産婦人科に転院することになりました。
西洋医学で調節されて産むのが嫌で選んだ助産院でしたが、そこから紹介された産婦人科はとても温かく、気持ちを楽にしてくれました。病院でも子供の胎位異常は全くわからないままでしたが、女性医師は明るく気持ちをほぐしてくれて、私たちにも子供に障害があっても受け入れようという覚悟も生まれました。
今日の記事は、高齢出産妊婦さんの胎児異常を宣言されてからの行動を振り返るものです。
前回までのお話はこちらもご覧くださいませ。
初めて出会えた信頼できる女性産婦人科医師
妊娠7ヶ月で、初めて産婦人科へ通うことになりました。住宅街の中にある小さな個人医院です。
奥さんより5歳年下の若い女医さんは、ご自身も”不妊治療”を継続中だと最初に話してくださいました。最近、引退した父親の後を継いで、女医さん一人、父親の代からのベテラン看護師さん一人の二人だけで病院を動かしているそうです。施設はとっても古いし、最新機器といったものがまったく見当たりません。しかも、例の助産師さんからの紹介。かなり、不安です。
「不妊治療をやらないで妊娠できたなんて、それだけですごく運がいいと思いますよ。すごいすごい」
そう言ってパチパチと拍手してくれました。しかも、満面の笑みで。それも、演技なんかじゃなく本気で。
あ、この人、いい人だ…。
そう思いました。単純に。ここへ来て正解なんだと。
大きな病院での検査結果を持って、診察を受けました。
「そうなんですね。赤ちゃんに異常はないんですね。よかったですね〜。でも、わたし、学会でも今回のような事例は見たことも聞いたこともないんですよね。不思議ですね〜」
「やっぱり、原因わからないんですか?」
「わたしも経験不足だから、いろんな先生に伺ったんですけど、全然わからないです」
「そうかぁ…」
「よし。じゃあ、もう7ヶ月だし時間もないし、できること、バンバンやっていきましょうね」
とにかく、正直で明るい。ノリがいい。
「で、ですね。いちおう、わたしはまだ自然分娩を諦めてないんですけど、お母さんはどうですか?自然分娩でいきたいですか?」
「はい。無理だと思うけど、やっぱり帝王切開はいやです」
「どうしてですか?」
「だって、麻酔するんですよね。生まれてすぐに自分で抱くことができないって聞いたから、そんなのいやだし」
「……よしわかりました!じゃあ、自然分娩で行きましょう!最後までわたしも諦めないから。ギリギリまで自然分娩いけるように一緒にがんばりましょう!」
この赤ちゃん。もしかして…
女医さんが、最初に試みたのが、触診でした。とにかく、
胎児と直接のコンタクトを試みる
「膣口から直接手を入れて、赤ちゃんの頭が動くのか動かないのか、触診してみますよ。だから、お父さんはちょっとあっちに行っててください」
「えっ。手を入れてお腹の中の赤ちゃんを触るんですか?」
「そうですよ」
「そんなことできるんですか?」
「普通はやりませんが、やらないとわからないですしね。大丈夫。母体にも胎児にも悪い影響はないですから」
わたしは、カーテンの奥へ追いやられ、二人の会話だけが聞こえてきます。
「じゃあ、指入れますよ。……ああ、やっぱりけっこう下がってきてますね。けっこうすぐそこに頭あるなあ」
なんだなんだ?どうなってるんだ?わたしも見たいぞ。なんで見ちゃいけないんだ?
デリカシーってやつなんでしょうね、きっと。
「あれ?あれあれ?おいおい、きみきみ。そうなの?
それがいいの?よいしょ。え〜?
はいそうなんだね。そうしてたいんだね〜」
女医さんの声がずっと聞こえてきます。とても明るい声で、まるで胎児と会話をしているように。
そして、
「ご主人さん。こちらへどうぞ〜」
不安そうな表情の奥さんをよそに、女医さんはなんだかニコニコ楽しそうな表情を浮かべています。そして、
「あのですね。お腹の赤ちゃんを触診してみました。わたしの手で直接、赤ちゃんの頭を触ってみたんです。頭を触るとちゃんと動くんです。だから、首もおそらく動くんです。固まって動かないなんてことはないんです。わたしが手で頭をぐいぐい押したら、ぐいーって押し返してくるんですよ。わたしが押したら、『押さないで』って押し返してくるんです。すごいですよ。この赤ちゃん」
「そうなんですか?」
「そうなんですよー!」
「そうなんですか…」
「医学的には胎児は人間と認められていません。それは、”胎児には意思と思考がない”からだと言われているんです。わたしもずっとそう思っていました。でも、お腹の赤ちゃんは、おそらくですが、意思を持っているんじゃないかなって思うんです。わたしが頭を押すと押し返してくるんです。偶然かなと思って何度やっても、同じ方向に頭を押したときだけ、必ず、押し返してくるんです。これは、明らかに、意思を持っている証拠です」
「つまり…どういうことですか?」
「この赤ちゃん、もしかして、この体勢が気持ちいいから、こうやっているんじゃないでしょうか」
「自分の意思で、首を後ろに反らしているということですか?」
「赤ちゃんにとって、この状態が一番、居心地が良いからだと思うんです」
「そんなこと、あり得るんですか?」
「ふつうはあり得ません。今までに見たことも聞いたこともありません」
「じゃあ、これはあくまで先生の仮説ということですか?」
「そうです。仮説です。だから、間違っているかもしれません。でも、おそらく間違ってないと思います」
「そうかあ…。でも、無事に生まれるかどうかは、わからないんですよね」
「そうですね。このまま臨月を迎えてしまうと、まず自然分娩は無理です。生まれたあとも首が反り返ったままという可能性もじゅうぶん考えられます」
「首が反り返ったままだったら、どうすればいいんでしょうか?」
「たとえば、5歳くらいまで待って、外科手術をして治すという方法もあります。手術自体は難しいものではないので、最悪の場合は、そうなる可能性はあります」
「でも、それはかわいそうですね」
「そうですね。お二人の精神的負担を考えると、なんとか、普通に生まれてほしいです」
「ぼくたちはいいんです。覚悟はできてるので。そうなると、赤ちゃんがかわいそうで」
「ご主人、素晴らしい。(パチパチパチと拍手の仕草)奥さん、素敵なご主人ですね〜」
そこで、初めて3人同時に笑いが起きました。
切迫早産で寝たきりの日々は、笑いと驚きの日々
赤ちゃんが、子宮口に下がってきていることもあって、奥さんは家ではほぼ寝たきり。3日おきに産婦人科へ通うというリズムになりました。
診察ですることは、同じ。手を入れて赤ちゃんの頭を押すことです。
「なんだか、だんだん押し返してくる力が強くなっていってるんですよね。もう待ち構えているような感じで。こうなったら根くらべだな。あたしと赤ちゃんの」
そう言って元気付けてくれますが、臨月は確実に近づいてきます。
家で二人きりになると(正確にはプラス猫1匹)、やはり不安は大きくなります。でも、よくないことは口にしたくないから、沈黙ができます。
それを、回避する方法が、
お笑い番組と、映画でした。
ひたすら笑う。
ただ、
笑う。
映画を見て感動する。
わたしが病気で1年間療養したときは、黒澤明、小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男、吉田喜重、増村保造、市川昆、大島渚監督作品全作品を観て、市川雷蔵主演映画全作品をひたっすら観ていました。(その中のベスト作品は、なんといっても成瀬巳喜男監督の『浮雲』と『晩菊』。この二作品は断トツですよ。お薦めです)そして、空いた時間で、家でもできるようにと、株式投資の本を5冊買ってずっと読んでました。
それに対し、奥さんは、ひたすら、お笑い番組。
お笑いネタ番組や、ガキ使。めちゃイケ、さんま御殿、跳ねるの扉あたりをひたすら見て、ゲラゲラ笑う。
奥さんは本来は、活字病なのですが、目が疲れるのもよくないということで、ただひたすら、バカな番組を見て、ゲラゲラ笑っていました。
といっても、やっぱり張りは治らないし、貧血は治りませんでしたが。
時間はどんどん過ぎていきます。
そんなとき、突然、わたしの友人から、変な申し出があったのです。
つづきは、高齢出産妊婦さんの苦悩5体を温めたおかげ?スピにすがったおかげ?奇跡が起きたをご覧くださいませ。
(執筆者:心の冷えとりコーチ 風宏)