妊娠と出産

“高齢出産”妊婦さんの苦悩5 〜奇跡〜

わらをもすがった結果

 

わたしの友人は27歳の独身女性です。

当時、彼女は動物病院で働いていて、わたしより11際も年下なのに、なんでも相談できる友人でした。彼女は、いつも、

「へえ〜。そうなんですか〜。大変ですね〜。それはきついですね〜」

と、相づちを打つだけで、自分の意見はなにも言いません。ただ、黙って聞いてくれる。

それが心地よくてわたしは、お腹の赤ちゃんのことも全部話していました。

彼女は、いつも病院の前で、ほうきとチリ取りを持って、ご年配の女性や商店街のおじさんや廃品回収のおじさんやお巡りさんや子供たちの話を聞いていました。

その中には、名だたる歴史上の超偉人の末裔の方もいたりなんかして、ありとあらゆる分野の人が彼女にいろんな相談ごとを持ち込むのです。

でも、彼女は、ただ聞いているだけ。

感想も意見もなにも言いません。でも、話をしたくなる。見た目は普通の20代の女性なんですけどね〜。

「なんで、みんな話をしにくるの?」

そう聞くと、

「そうなんですよ。わたし、忙しいんで人の話聞いてる暇ないんですよね。わたし、そんなに頭も良くないから、なにも感想言えないし。なんででしょうね」

そんな女性です。

そもそも彼女との出会いは、わたしが病後のリハビリで毎日自宅周辺をウロウロ歩いていたときのこと。

ガラス張りで中がよく見える小さな動物病院で彼女はいつも大忙しで働いていました。

スタッフはほぼ彼女一人。

ペットホテルも兼ねているので、治療だけではなくシャンプーをしたり散歩をしたり、とにかく忙しそう。

そんなとき、いつも寂しそうに外を見ている見た目がかなりこわい大型犬がいて、どうもその犬だけ散歩してもらってないように見えます。そこで、わたしは彼女に話しかけ、なぜ散歩してあげないのかと尋ねました。

すると、その犬はオーナー院長の飼い犬で、患者や宿泊の犬を散歩させるだけで手が回らない。院長は見栄えがいいというだけで飼ったが、大きすぎて自宅にも連れて帰らないし、散歩もしてあげない。だから、自分が手が空いたときだけ散歩してあげている。と、言うのです。

それで、わたしが毎日1時間の散歩を買ってでました。

最初は歩き。

しつけてないから、縦横無尽にものすごい力で引っ張られました。

わたしも意地になり、独学でしつけを勉強して、最後は、自転車で20キロくらい並走して走れるようになりました。

三半器官の失われたわたしはバランス感覚が非常に悪いのですが、この犬のおかげで平衡感覚のリハビリを楽しみながら行うことができたのです。散歩しながら、その犬に、奥さんの状態を毎日話して聞かせたりもしました。おかげでわたしも癒されました。

彼女の、

「風さんはドッグトレーナーとしての才能もすごいあると思いますよ」

という、おだての言葉に乗せられて「ドッグアドバイザー」の資格を取ったほどです。わたし、猫派なんですけどね…。話がずれました。戻します。

そんなある日、彼女が突然こういうことを言ってきました。

「まだお腹の赤ちゃん、反り返ったままなんですか?」

「うん。なんでかわかんないけどね」

「あのー…わたしの知り合いでー、見えないものが見える人がいるんですけどー、会ってみる気はないですか?」

「奥さんが?」

「いえ、風さんが」

「わたし?奥さんじゃなくて、わたし?」

「はい。奥さん動けないんですよね。とりあえず、いまの状態を風さんが話してみたらと思って。けっこう、びっくりするようなことを言われると思うんですけど」

「どういう人?」

「ボランティアで、病気とか、家庭の相談とかを聞いていて、いろいろ助言してくれるんです。うわさが広まって、いまは予約をしないと会えないんですけど、わたしの紹介だったら風さんの都合がいいときに話ができると思います」

「ちょっと危ない関係の人?」

「ぜんぜんそんなんじゃないですよ。自己啓発セミナーとか宗教の勧誘とかじゃないですから。なんて説明したらいいのかな…。とにかく、風さんは言われたことを実行したら、ぜったいうまくいくと思うんです。それ以上わたしの口からはなにも言えないんですけど…。どうします?」

「ん〜、さっぱり要領得なくてよくわからないけど、会ったほうがいいんだね」

「はい。会うべきだと思います」

「わかった。じゃあ、会うよ」

 

 わらをもすがる想い

 

があるだけに、そのぶん警戒心も普段より強くなっています。

 

 期待する気持ちが強い

 

 

だけに、いま、落胆だけはしたくないのです。

がっかりする気持ちを持って、家には帰りたくない。

だから、

 

 楽しみだけれど、期待はするな

 

そう自分に言い聞かせて、会うことに決めました。

それから、2週間後のある日のある場所で、その人に二人きりで会いました。男性で年齢は45歳くらい。真面目なサラリーマン風のスーツを着た方でした。わたしの事情は前もってお手紙でお知らせしておきました。

その人は、会うなり、無駄話いっさいなしで、こう切り出しました。

 

「奥さんのお腹の赤ちゃんを正常に戻すためにできる方法が一つだけあります。それは、あなたとあなたのお父様の関係を修復することです」

「ぼくとぼくの父との関係ですか?」

「はい」

「ぼくと父は別に関係は悪くはありませんけど…。うまくいっている方だと思います」

「お父さまは赤ちゃんの今の状態をご存知ですか?」

「いえ、言ってないです」

「ですよね。あなたは気づいていなくても、父親と息子の関係というのは知らず知らずのうちにギクシャクしていて、それがお互いにとって当たり前になってしまっていて、おかしな状態になっていることに気づいていないことが多いんです。だから、お父様との関係を、お互いがはっきりといい状態だと認識できるものにしてください。お腹の赤ちゃんを治すにはこれしかありません」

「……。ぼくと父の関係がよくなったら、子供が治るんですか?」

「はい」

「……なぜそうなのか教えていただけますか?」

「そうだからそうだとしか言えません」

「……。ぼくは父に何をしたらいいのですか?」

「それはご自分で考えてください」

「……。理解したいとは思っていますけど、仰ってる意味が、ぜんぜんわからないんですけど」

「ですよね。だったら、わたしが奇跡をお見せします。そしたら、信じていただけますか?」

「奇跡…ですか?」

「人間の体の中には、積年の想いがヘドロのように溜まっています。恨みや嫉妬や悲しみや怒りなどです。その苦しい想いが溜まってコールタールのように体の中にへばりついています。風さんの体のなかにもたくさんのコールタールが溜まっています。それを、まず、これから取り除いていきます」

そう言って、黙ってじっとわたしを見つめています。そして、

「風さんの手にはタコが一つ。足には魚の目が一つありますね」

その当時、わたしの右手の中指の指紋のど真ん中には、子供のころからのタコがありました。その場所だけ皮が固くなっていて、左足の人差し指の付け根のあたりにも大きな魚の目がありました。

「それは、人間の苦しみが溜まりきったときに溢れて出てくるんです。それを今日から5日以内にきれいになくしてあげましょう」

「え〜。それは無理だと思います。だって、わたし、指のタコは子供の頃からの付き合いですから」

「それがなくなったら信用してくださいますか?」

「信用しますします。でも、無理だと思うな〜」

「もし、なくなっていたら、あとはすぐにお父様との関係を修復してください。もう時間がありません。タコがなくなっていたらすぐに実行に移してください、いいですね」

そしてその方とは別れました。「これはわたしの修行でもありますから」そう言って、金銭もお礼も一切受け取ってくれませんでした。

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奇跡の始まり

 

翌朝、目が覚めてすぐに指をみました。タコはなくなっていませんでいた。なくならないよな〜ふつう。

二日目の朝、タコはやっぱりありました。小さくなってもいません。

三日目の朝。タコは、影も形もなくなっていました。飛び起きて足を見てみました。影も形もありませんでした。

タコはないどころか、もともとずっと昔からそこにあったような、きれいな指紋ができていました。

いま、こうやって書いていても、話ができすぎていて、自分がうそを書いているような錯覚に囚われますが、真実なのです。脚色もいっさいありません。

わたしは、すぐに父に電話をしました。そして、奥さんと二人で考えていたことを父に伝えました。

「親父い。赤ちゃんの名前をつけてくれんね」

わたしと奥さんは、こどもの名前を決めていました。女の子だとわかっていたので、

 

と、書いて、

 おとちゃん

 

わたしが、片耳の聴力を失って、できた子だからというのもありました。わたしの好きな言葉が、

「聞く耳を持つ」

と、いう言葉だからというのもあります。

奥さんは小さいころピアノを習っていましたが、挫折してしまいました。奥さんはものすごく後悔していました。

お父さん、お母さんの分まで、音を大切にする子に育ってほしい。

そういう思いからつけました。

でも、それを諦めて、わたしは、父に最初からお願いすることに決めました。

 父は、ものすごく喜びました。

 

「いいんか?いいんか?おれがつけてもいいんか?」

そう何度も聞いてきますが、声が上ずっているのがわかるほど、興奮していました。わたしは、涙が出そうになりました。父がわたしに対して、こんなに興奮して声を出したのが初めてだったからです。

 

わたしは、次男坊です。父は、根っからの九州男児だったので、極端と言えるほどの、長男至上主義でした。兄弟喧嘩をすると怒られるのは必ずわたしでした。クリスマスケーキは、必ず兄がわたしの倍の大きさでした。服はもちろん兄のお下がりです。兄がどんなに理不尽なことをわたしに要求しても、「お兄ちゃんの言うことに絶対逆らったらいけん」そう言われていました。これは、あとで母から聞いた話ですが、母が、どうして兄の味方ばかりするのか、父に尋ねれたら、

「長男やから当たり前やろが!」

「じゃあ、あなたにとって長男のほうが大事なんね?」

「そんなもん当たり前やろが!長男やぞ。九州の男にとって長男は特別なんじゃ。おまえは九州の女のくせにそんなんもわからんで子育てしとったんか!」

だから、わたしは父から好かれていると感じたことは一度もありませんでした。大人になり、そういうことすら忘れてしまっていました。ただ、父に頼ることだけは絶対にしたくない。弱音も吐きたくない。そういうヒネた想いがあったのも事実でした。ちなみに、父も次男なんですけどね…。

でも、その父がわたしの申し出で、こんなに喜んでくれるんだ。

わたしは本当にうれしかった。

これでよかったんだ。

わたしは、赤ちゃんの異常を知ってから初めて、肩の力が抜ける感覚を味わっていました。

 できることはすべてやった。もう、これ以上、わたしたち夫婦にできることはないんだ。あとは、運を天に任せよう。

IMG_1106 じいじとばあばと孫

 

 奇跡は本当に起きた

 

 

それから、4、5日後だったでしょうか。

奇跡は突然、やってきました。

本当に、突然、突風に襲われるように。

その日、いつものように、わたしと奥さんと猫で、お笑番組を見ていました。何を見ていたか思い出せませんが、二人でゲラゲラ笑っていたことは覚えています。

記憶では、時間は、午後10時過ぎ。奥さんは、いつものようにお腹を上にしてソファーに横になったままです。

突然、引き付けをおこしたような声を奥さんがあげたのです。吸う息が突然止まるような音です。そして、頭を上げ、お腹を押さえました。そして、

「ウウッ!」

と、いううめき声。

「どうした?」

「お腹が…いたい…」

奥さんは、お腹を押さえ、そのまま前のめりに倒れました。そして、

「お腹がいたい…」

と、絞り出すような声。

「救急車!救急車呼ぶ!」

わたしはそう言って携帯電話を握り、奥さんを見ました。奥さんは、上半身だけ起き上がり、

「ううううう〜」

と、小さな声でうめきながら目を見開いてお腹を見ていました。だめだ。もうだめだ。わたしはそう思いました。

「ああ、赤ちゃんがグルリッて回転した」

奥さんがつぶやきます。

「回転したってなに?」

「わからない。わからないけど、お腹のなかで回転したの」

「どうする?救急車呼ぶ!?」

「ちょっと待って」

その状態が、どれくらい続いたでしょう。

「大丈夫…だと、思う」

「大丈夫?」

「たぶん…」

「救急車呼ばなくていいの?」

「…うん。たぶん…大丈夫」

「本当に大丈夫?一応、病院の先生に電話だけ入れとく?」

「大丈夫。いちおう明日は病院だし。………、赤ちゃん、治ったと思う…」

「えっ?」

「たぶんだけど、正しい形に戻ったと思う。もう首も普通の状態に戻ったと思う」

「わかるの?」

「うん。わかるの。もう外に出てきたくなったんだと思う」

「どうして、そう思うの?」

「たぶん…」

翌朝、朝一番で病院に行きました。

先生に昨夜の出来事を話し、、すぐにエコー画像を見てみました。

赤ちゃんは、普通の赤ちゃんと同じでした。口元で両手に握りこぶしをつくって、丸まっていました。顔は見えなくなっていました。

初めて…、わたしたち夫婦は、初めて、ふつうの赤ちゃんのエコー写真を撮ることができました。

妊娠9ヶ月。ちょうど臨月を迎えたときでした。

「自然分娩、いけそうだね」

女医さんの言葉は、今までの苦労をすべて吹き飛ばしてくれました。

IMG_1840 IMG_1951

(左が翌日に撮った画像。頭頂部が見えています。右と比較してください)

次回、いよいよ完結。

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