嫁姑問題

心の冷えとり あって当然。嫁姑問題6 〜夫を軽くみる義両親に怒る妻

親のありがたみ

 

脳腫瘍の術後、目が覚めた時、目の前には奥さんや両親、兄、義母が立っていました。

「あなたは誰ですか?」

「えっ?風宏です」

「じゃあ、これ、なんて書いてあるかわかりますか?」

目の前には正露丸のビン。なんだこれ?

「これ、この漢字、読めますか?」

「はい」

「なんて書いてあります?声を出して読んでみてください」

「せいろがん」

この瞬間、ものすごい歓声が聞こえたのを覚えています。

「意識もはっきりしているし、字も読めます。大丈夫のようですね」

医者がそう言うと、

「先生、ありがとうございました!」

と、いう奥さんや両親の声が聞こえる。わたしはその直後、また意識を失いました。

次に目が覚めたのは、ものすごい頭の激痛からでした。麻酔が切れたのです。酸素マスクがはめられた口の中がカラカラに乾き、猛烈な喉の渇きに襲われます。頭がボルトで固定されているので寝返りも打てません。酸素マスクと頭の傷口を無意識に触らないように両腕も輪っかをはめられ固定されています。頭の傷口からは数本の管が伸びて横にある大きな機械につながっています。耳に移植する脂肪を取り出したお腹からも管が伸び、おチンチンからも管が伸びていました(お小水を取るためのカテーテルですが、これも情けなくなるほど痛いのです)。頭とお腹の傷とおチンチン。全てが気が狂わんばかりの激痛に襲われています。そして、呼吸が苦しくなるほどの喉の乾き。まさに拷問でした。手に握らされてグルグルにテープで巻かれたナースコールを押すと看護師さんは駆けつけてくれますが、

「ごめんなさいね。まだ水を飲むことはできないんです。これで我慢してくださいね」

そう言って濡れた脱脂綿で唇を拭いてくれます。それを舌で舐めるのです。気休めにもなりません。

頼む。気を失ってくれ……。

そう願っても痛みと喉の渇きでそれもできません。

術後の夜を、痛みと自分の渇いたうめき声を聞きながら過ごしました。

翌朝8時、奥さんと両親がやってきました。

両親は、二日前、「宏は死ぬ死ぬ」と、あれだけ泣いて憔悴しきっていたのに、痛みに苦しむわたしを見ても、

「手術成功してよかったね」

陽気なほどでした。本当に現金なものです。でも、わたしにはその陽気さが救いになりました。

まだ、食事は取れないので、りんごジュースを奥さんがストローをわたしの口に当てて飲ませてくれました。

結局、術後1日目の朝、昼は飲み物のみで、夜になってようやく果物を食べさせてもらえました。しかし、腕も頭も固定されているので完全介護です。食べさせてもらえないとまったく口に運ぶことができません。

そんなとき、両親がこんな申し出をしたのです。

「茜さんも疲れているだろうから、明日はわたしたちが来るから、一日ゆっくり休んだらいいよ。今日はお兄ちゃんのところに泊めてもらうけ。夜も一人でゆっくりしてね」

「でも、明日のお昼からはちゃんとした食事が出ますから、宏さんの介護もやらないといけませんから、わたしが来ます。大丈夫です」

「いや、茜さんはかなり疲れているから休んでください。わたしたちが責任持ってやりますから」

父がそう言ったことで、奥さんの力がすっと抜け、

「じゃあ、お言葉に甘えて。それでいい?」

そう聞かれて、わたしはウンウンとうなづいて答えました。声を発する振動だけで、悲鳴をあげるほどの激痛がまだおさまっていません。耳鳴りもひどく、生コン車がコンクリートを吐き出すような音がずっと鳴り響いていました。

「では、明日の朝はこちらで介護しますが、お昼ご飯は介護をお願いします。11時までに必ず来てください」

看護師さんがそう言って、

「わかりました。11時ですね」

両親もそう答えました。

「じゃあ、わたしは2時頃に来るから。お父さんお母さん、それまで介護よろしくお願いします」

そういうやり取りでした。

 

その晩、両親は兄の家に泊まりました。かわいい二人の孫の待つ家へ。

 

96a9639be13d1460c3619d3db79e99dc_s介護は生半可な気持ちではできない。

 

いとも簡単に約束を破る親

 

翌日、術後二日目。午前11時に昼食が運ばれてきました。もりそばと皮のついた大きな桃1個でした。

わたしの頭も腕も固定されたままです。

「ご両親まだ来ませんね〜。大丈夫?今日のお昼は手が足りてないからわたしたち介護できないから」

看護師さんが気を使って、そう言ってくれましたが、両親はやってきませんでした。

わたしは、がっかりするというよりも、「来ない」という事実が理解できません。

兄家族の家に泊まっているのだから、忘れるということはあり得ない。仮に忘れても兄が早く行くように促すだろう。それでも、来ないということはなにかあったのだろうか?両親も疲れていただろうから、具合でも悪くなったのだろうか?それとも、来る途中で事故にでもあったのではないだろうか?

わたしの精神状態も普通ではありません。一気に不安が押し寄せてきます。しかし、わたしには確認する術がありません。寝返りすら打てない状態が続いています。

30分、1時間待ちました。

それでも、両親は来ませんでした。

わたしは待つことを諦め、せめて桃だけでも食べておこうとチャレンジしました。お腹は減ってなくても、喉が渇いて仕方がありませんでした。大きなピンク色の桃がとにかくきれいで、食べたくて仕方がありません。

しかし、頭は固定されてます。手も使えません。なんとか体を揺らして、振動でわたしの胸の上のあたりに取り付けられたテーブルを揺らして桃をわたしの胸に落としました。

そして、胸をあげて顎のほうにズラし、顎で支えて大きく口を開けて、その上に桃をのせました。

そして、ガブリとかぶりつきました。果汁が口の中だけでなく頰や首にも流れ、そのままシーツに落ちていきます。舌で桃を回してまたガブリ。美味い!涙が出るほど美味い。

脳腫瘍がわかってから、初めて涙が出ました。

こんなに美味しいものが世の中にあったということに気づけた喜びと、

生きててよかった

 

心から実感できた喜びでした。

4e412eb714d86305dba10d7c64d0f5cc_sまさにこんな桃。いまでは、最も好きな食べ物のひとつ。

 

しかし、3口目に行く前に桃はコロンと落ちてしまい、わたしの右頬のすぐ横に転がりました。

でも、どうにもできません。

なんせ、頭も手も動かないんですから。

果汁がどんどんシーツを濡らしました。

しばらくすると、看護師さんがやってきて、この状況にものすごく驚いていました。

「ご家族は?来てなかったの?」

「みたいです」

「なにをやっているの?重病の患者さんを一人にして!?」

看護師さんは猛烈に怒り、わたしの奥さんに電話を入れました。

午後1時。奥さんが飛んでやってきました。

このとき、まだ、両親は来ていませんでした。

 

この期に及んで、「孫が悪い!」

 

「なんで、来てないの!?ひどい!ごめんね。やっぱりわたしが来るべきだった。信用しなきゃよかった」

奥さんは、看護師さんからこっぴどく叱られました。あれだけ昼食前に来るように言ったのに、なにを考えているのだと。

そりゃそうです。わたしがシーツを汚したおかげで、看護師さんの仕事が増えたのです。動かすのにものすごく時間と労力のかかるわたしを3人がかりで慎重に動かし、シーツを替えて、また3人がかりで戻すのです。

そして、昨日以上にぐったりと疲れた奥さんとわたしだけになって、シーンと静まりかえった部屋に、やってまいりました。真打ち登場です!

部屋に入るなり、

「あら、茜さん、来とったんね。今日は休んでいいって言ったのに」

母がそう言いながら、二人ともニコニコ笑って入ってきました。

「なぜ、朝11時に来てくださらなかったんですか?」

怒りを抑えた奥さんの言い方でした。

「えっ?あれ?そうやった?朝11時やった?お父さん、そうやったかね〜」

母がそう言うと、

「ほらみろ。だから俺が言うたやないか!11時までに行かないかんって。俺が言ったのに、こいつ(母を指して)が、時間は決まっとらんって言い張るけぇ」

「あら?そうやったかしら?ごめん。ミツル(兄の長男・仮名)が『じいじとばあば、もっと遊んで』って言うから忘れてしまったんよ。もうあの子、言い出したら聞かんけ、出るに出られんかったんよ。ねえ、お父さん」

「おまえ、いまさらミツルに責任押し付けるな。時間を忘れた俺らが悪いんやから」

「そう言っても、ミツルがあんなにしつこく言わんかったら絶対忘れとらんよ」

二人は、無意味なやり取りを続けています。そして、

「どうしてお二人はいつもそうなんですかっ!もういいかげんにしてください!息子の一大事にどうして時間を忘れられるんですか!どうして、孫に責任を押し付けるんですか!」

「そりゃそうや。宏、茜さん。すまん。本当に申し訳ない」

父が、なんとか取り繕うとしますが、無理でした。父も当事者なわけですから。

 

このときばかりは、わたしも許すわけにはいきませんでした。術後、二日目です。心に余裕がまったくありません。

「もう来なくていいから」

絞り出した声がその一言でした。

「ちょっと遅れたくらいでなんね!そんな言い方ある!」

今度は母がキレました。

「お父さん、わたしたち邪魔なようやから帰ろ。また明日来よ。ここにおっても、宏も興奮するし、よくないよ。明日、また来るけね。来んほうがいい?来んほうがいいんやったら来んよ。じゃあ、お父さん行こう」

「二人とも、悪かったね」

そう言って、二人は部屋を出ていきました。

 

そのあと、病室に残った奥さんとわたしはほとんど口をきかなかったように思います。

奥さんは淡々と動き、わたしに夕食を食べさせて、

「じゃあ、明日ね」

そう言って、帰りました。

e29b5ee001f1b3226122fc1a2d1ee3f6_sたしかに子供の涙には皆弱いが…。

 

一騎打ち(父母談)

 

翌朝、どういうわけか両親がやってきました。

「今日、九州に帰るけ、お昼、あんたの介護をやって帰る事したよ」

「奥さんは?」

「知らんよ。夕方に来るんやないの」

母は、そう言うと、シクシク泣き始めました。参ったな〜。やっぱり、あのあと、家で一悶着あったんだろうな〜。覚悟はしてましたが、両親は、奥さんがわたしに昨夜の状況を伝える前に、わたしと話したかったのでしょう。しかし、母は感情が先走り、泣き出してしまったのです。

「わたしたち、お兄ちゃんばっかり贔屓(ひいき)してなんかないよ!それなのに、なんで茜さんからあんなひどいことを言われないかんの!あんなひどいことを言われるとは思いもせんかったよ」

「俺も、いきなりあんなこと言われるとは思ってなかったけね〜。びっくりしたよ。すごい剣幕やった。あれは、いくらなんでもの〜」

そう言われても、わたしにはなんのことかさっぱりわかりません。昨日、介護に来なかったことで言い争いになったんじゃないの?わたしと兄って?

「ごめん。なんのことを言ってるのかさっぱりわからん」

わたしがそう言うと、

「わたしたちもわけわからんよ。あんたをないがしろにしとるとか、お兄さんのことばかりを贔屓しとるとか。もう、わけわからんもん」

「まあ、茜さんもおまえのことでイライラしとるのはわかるよ。わかるけど、あれじゃあ、ただの八つ当たりやもんな〜」

「申し訳ないけど、なにが起きたのか、きちんと最初から話してくれる?」

父が話した内容はこうでした。

「最初からもなにも、茜さんは帰ってくるなり、突然、怒鳴り始めた。『なにを考えているんですか‼︎?自分の息子をなんだと思っているんですか‼︎?』そりゃあ、昨日、忘れたことは悪かったから申し訳なかったと謝ったんやけど、そのあと、急に『そんなにお兄さんのほうが可愛いんですか‼︎?前からずっと思ってました。お兄さんばかりを贔屓して、宏さんをないがしろにしているのがわたしは許せなかった!この際、全部言わせてもらいますから!』って言うてな。そりゃもう、ものすごい剣幕で。一方的に言うばかりで、こっちが話すもなにもないよ。おれが、茜さん少し落ち着いて話そうって言っても『言い訳は聞きたくありません!』って言って全然こっちの話は聞かんし。いくらなんでも、あの態度はよくないぞ」

それを補足するように母は、

「わたしもこれまで生きてきて、あそこまでひどいことを言われるとは思ってなかったよ。それまで、一度もあんなことを言ったことがあったかね。なかったやろも。それを突然、堰を切ったようにあんなこと言い出しても、わたしたちにどうせって言うの?そもそもお兄ちゃんとあんたを区別するわけないやろうも。なんで兄弟で贔屓なんかするかね。あの言葉にはわたしは本当に頭にきたね。もう絶対許さんけね。わたし、もう茜さんとうまくやっていく自信ないわ。無理やね。あの人とうまくやっていくのは。あんたには悪いけど、あたしは無理だわ」

 

結局、わたしには、よくわかりませんでした。

ただ、わたしは、はっきりこう言ったことを覚えています。

「おれは、ずっと兄貴より大事にされてないと思って生きてきたよ。出来のいい兄貴は大切だけど、出来の悪いおれのことは嫌いなんだろうな〜って。茜がそう言ったのなら正しいよ。今回もそう思った。来なかったとき、やっぱりかって…」

「あんたまで…、そんなひどいことを…。そうなん。茜さんの味方をするんやね。ようわかったようわかった。お父さん、帰ろ」

と、母。

「まあ、おまえも茜さんも普通の状態やないから、少しおかしくなっとるかもしれんからな。あまり考えるな。おれたちもこれ以上おっても、いいことにはならんから帰る。今度、落ち着いたら話そう」

と、父。

(そうじゃないよ。どっちの味方とか、そういうことじゃないよ)

そうして、二人は帰っていきました。前にも書きましたが、それから数年後、母がわたしにカミングアウトをしました。父に、「宏よりもお兄ちゃんのほうが大事なんね?」そう聞くと、

「そんなの当たり前やろが。長男やぞ。長男は特別なんじゃ」

「じゃあ、あなたにとって一番大事な家族って誰ね?」

「一番は長男に決まっとる。二番はおれの兄弟」

「わたしと宏はあんたの兄弟の下ね?」

「そんなの決まっとる」

奥さんが、言ったことはまったくその通りだったのです。

 

一騎打ち(奥さん談)

 

夕方、奥さんがやってきました。

開口一番、

「やっちゃった。全部ぶちまけちゃった」

でした。

「おふくろ、烈火のごとく怒って帰ったよ。もう無理だって」

「そうだろうね。おそらく、今まで人から忠告されたことなんかなかったんだろうね」

「で、実際は、なにがあったの?」

「両親から聞いたでしょう?」

「聞いたけど、全然要領を得ないんだよ。兄貴を贔屓してないとかなんとかって、そんなことばかり言ってた」

「どうせそんなことだろうと思ったよ」

奥さんの話す詳細はこうです。

家に戻り、

「なぜ、遅刻したんですか?」

もう一度問いただしたそうです。それに対し、

父「僕たちが家を出ようとしたらミツル(兄の長男)が泣き出したんよ。『もっと遊んで!行かないで!』って。そらもう、ものすごい勢いで泣くんよ。もうかわいそうでね。じゃあ、あと少しだけって思ったらあんな時間になってしもうたんよ」

 

7ae68afc7dadec2d56666708db55cde6_s孫と遊びたい気持ちもわからないでもないが…。

茜「いいですか?今回お二人はなぜ上京したのかおわかりですか?宏さんの手術のために上京したんですよね。宏が死ぬ死ぬって、大騒ぎしてあれだけ泣いて。介護もわたしはいいですって言ったのに、自分たちからやりたいって言ったのですよね? それなのに、孫がかわいそうだから忘れるって…。そんな話ありますか? それでも親ですか?本当に宏さんのことを大切に思っているんですか?」

母「だから謝ったやろ!もういいやない。悪かったって言いいよろうも。それに、宏は助かったんやから別にいいやないね」

茜「そんなものなんですか?親の愛って。この際、はっきり言わせてもらいますけど、お父さんお母さんにとって、宏さんよりお兄さんのほうが大事なんですよね。わたし結婚してから、今までずっと思ってました。どんなときでも優先するのはお兄さん。お兄さんの言うことはどんな無理なことだって聞くのに、宏さんに対しては、どんなに宏さんの都合が悪くても平気で利用するし、平気で約束を破る。明らかにお兄さんが間違っていて、宏さんが正しいときでもお兄さんが正しいって言ってますよね。わたし、もう、我慢できないんです。宏さんが、かわいそうすぎます。それに今回だって。親として、最低です!」

母「あんたになにがわかるんね。子供がおらんあんたに親に気持ちがわかるんね!」

茜「親の気持ちはわからなくても、子供の気持ちはわかります。親は贔屓してないつもりでも、子供にはわかるんです。なんでそこをわかってあげないんですか?子供に気持ちが通じないと意味がないんですよ!」

母「それがあんたの本音やったんやね。あんたはずっとわたしたちにそう思っとったんやね」

茜「そうですよ。事実ですから。わたしは事実を言っているだけです。宏さんは言わないだろうから、わたしが言ったんです」

 

書いていて、疲れました。

続きは次回。

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(執筆者:心の冷えとりコーチ 風宏)