交通事故はできれば遭いたくないものです。でも、もし遭ってしまったら、迅速に対応できればいいのですが、はたして冷静に対処できるでしょうか?
今日の記事は、交通事故の加害者になってしまったときにどのような対応をしたらいいのか、事例をもとに考えていきたいと思います。
交通事故は巻き込まれてしまうものです。そうなったときに知識があれば、冷静に対処できるものなのです。
1交通事故の現実 善人も一瞬で悪人へ
15年ほど前の話。
奥さんの妹さん(暁さん・仮名)に降りかかった交通事故です。
車同士の接触事故でした。
大きな川沿いの土手の上を走る道。土手と道の境界にガードレールはありません。
川までの高さは5メートルほどで、緩やかな土手は芝生で覆われています。
そんな場所ですから近くに民家はなく、信号機とヘッドライトの明かりだけが夜の道を照らしています。
午後9時。車を運転していた暁さんが交差点の先頭で信号待ちをしていました。後続車はいません。
すぐ左側は土手です。
左折してきた車が、曲がりきれず、暁さんの車のフロント部分に右横から突っ込んできたのです。暁さんの車は、追突された衝撃でそのまま左側に飛ばされ、2台とも土手の下に鼻先を向けて並ぶように止まりました。
突然の出来事。あまりの衝撃に、運転席の中で呆然としていると(おそらく軽い脳震盪を起こしたのでしょう)、
相手のドライバーがものすごい剣幕で降りてきたのです。50代くらいのおばさんです。
「なんでこんなところに停まってるの!」
暁さんの運転席のガラスドアをドンドン叩きながらそう怒鳴っていました。
暁さんは、車を降り、
「こんなところって…、交差点で信号待ちをしていただけです。ぶつかってきたのはそっちで…」
「なに言ってるの!停止線よりかなり前で停まってじゃない!信号が変わる前に発進ししたんでしょう?だから、ぶつかったのよ!そっちの責任よ?どうしてくれるの!」
「え…、すみません…」
「あっ、あなた、自分が悪かったって認めるのね。じゃあ、免許証と車検証を見せて」
「あ、はい…」
「いい?あなたが謝ったということは、あなたに責任があるって認めたってことだからね。わかった?車の修理費とかきちんと払ってもらうから。いい?」
「えっ…でも…」
「だって、あなた、いま謝ったじゃない。自分に責任があるって認めたじゃない!」
「そうですけど…」
「とにかく、はい、これ。ここに、名前と住所、電話番号、書いて!免許証番号と車検証も」
暁さんは、運転には自信がありました。会社の通勤、営業にも自車を使っていたので、ほぼ毎日、車を運転しない日はありませんでした。
もちろん、今まで一度も事故を起こしたことも巻き込まれたこともありません。
だから、交通事故なんて、対岸の火事くらいにしか思っていませんでした。
仕事が終わり、帰路につく途中。通い慣れた道。もっともリラックスした瞬間。いつもの交差点で巻き込まれた事故でした。
予想だにしていない出来事。頭に衝撃も受けています。
「はい、ここ。携帯電話と自宅の住所。それに、職場の住所と電話番号もね。もう最悪!」
暁さんは、一方的にまくし立てる相手のペースに完全にハマってしまいました。
あとで思うと、相手から、
「免許証と車検証を見せて」
と、言われたあたりから、完全にペースに巻き込まれたそうです。
そういう言葉を言われた瞬間に、
「相手のほうが、事故には詳しいのだろう…」
という、思い込みが咄嗟(とっさ)に生まれてしまったのです。
事故が起きると、事故(事件)の当事者となります。その現実に押しつぶされ、恐怖感が一気に襲ってきます。誰かに頼りたい…。警察に連絡!?
そうなるのが正しい思考の流れなのですが、この場合、相手のおばさんにプツンと断たれてしまいました。
そして、「免許証と車検証を見せて」
そう言われた瞬間に、暁さんの頼るべき相手が、警察ではなく、相手のおばさんに変わってしまったのです。
「なんで、警察を呼ばなかったの?」
あとで奥さんが暁さんに聞くと、こう答えました。
「おばさんの矢継ぎ早の口撃に完全に思考が停止してしまったの。周りには誰もいないし、否定したら何されるか怖くなって…。もうこの人の言う通りにしたほうが楽かなって」
これが実に多いのです。
残念ながら、皆が皆、善人ではありません。
というか、
交通事故の現場では、善人だった人が、悪人になる場合も少なくないのです。
日頃のおごりが交通事故を招く
”ハンドルを握ると人が変わる人”
どうですか?知人にたくさんいませんか?それも、女の人に。
普段、ストレスや不満を抱えた人が、唯一、自分一人きりになれる空間が車。自分の力で自由に操れるのが車。ハンドルを握った瞬間に心も体も解放されて、全てをコントロールできるという錯覚に陥るのです。ハンドルを握ると変わる人とは、そういう人のことを言います。
確かに、暁さんは、運転が上手い。わたしは何度も彼女の助手席に乗ったことがあります。地元の通い慣れた道路ということもあって、見通しの悪い住宅街の曲がりくねった道路でもスイスイ飛ばして走ります。
そんな彼女に、
「もうちょっと減速したほうがいいんじゃない?」
そう何度も注意したことがあります。でも、暁さんは、
「この道はお義兄さんよりわたしのほうが詳しいんだから黙ってて。わたし事故、起こしたことないんだからね」
そう言って、わたしの言葉に耳を貸しません。
今回の事故で、彼女は、確かに赤信号で停止していたし、事故に巻き込まれただけであって、おこしたわけではありません。彼女にはなんの落ち度もない。
なのに、暁さんは、おばさんの仕掛けた罠にいとも簡単にハマってしまいました。
どうしてでしょう?
相手のおばさんから、
「停止線よりかなり前で停まってたじゃない!信号が変わる前に発進したんでしょう?」
そう言われた瞬間に、自分で、
「そうかもしれない…。青に変わる寸前に動いたのかも…」
と、自分を疑う気持ちが生まれていました。その一瞬の隙におばさんから付け入れられたのです。
彼女は運転に自信があります。営業で1日に何箇所も回ります。渋滞で時間に遅れるなんてこともしょっちゅうです。常に、時間に追われている。その気持ちの焦りから、停止線から前に出て停まっているなんてことは、日常茶飯事です。もしかしたら、青になる寸前に発進したこともあるかもしれません。
おばさんに指摘された瞬間に、「そうかも…。あれ?どうだろう…思い出せない」
日頃から、落ち着いた運転をしていれば、そういう惑いはなかったでしょう。
交通事故では目撃者が大切!
暁さんを救ったのは、やっぱり目撃者の存在でした。
数分後、赤色灯を点けた警察車両が到着したのです。
「事故の当事者は、お二人ですか〜?」
警察官が降りてきます。
「通報されたのはどなたですか?」
「わたしです」
暁さんもおばさんも、まったく気づいていませんでしたが、すぐ近くには、散歩中だったと言う男性が立っていました。
「私は近くで見ていましたけれど、停車中の車に突っ込んで行ったのはあなた(おばさん)なので、あなたが悪いと思います。この人(おばさん)は、警察も救急車も呼ぼうとしないで、話を進めようとしているようだったので、わたしが連絡しました」
と、助け舟を出してくれたのです。
もちろん、暁さんの車は動いてなかったこと。停止線から出てなかったことも証言してくれました。
おばさんは、これらのことを男性から指摘されると、急におどおどした演技で、
「わたしも混乱してしまって、なにがなんだかさっぱりわからなくて…あなた(暁さん)、お身体大丈夫?」
と、必死に取り繕うとしていたそうです。
過失割合はもちろん10対0。暁さんの責任はゼロです。暁さんの車は修理不可能ということで、廃車になりました。
やられ損には違いありません。
2「警察を呼ぶな!」と言う交通事故被害者に従った結果…
今度はわたしの友人女性・月子さん(仮名)の話です。
住宅街の中の、とある、信号のないT字路。
どっちも細い道路ですが、月子さんが運転する車が、突き当たりにある道路に差し掛かった時でした。
月子さんは左折ウィンカーを出して、突き当たりの道路に侵入します。そこに、右横から走ってきた車が追突したのです。
運転していたのは、30代のサラリーマン風の男性でした。
月子さんは、あまりの衝撃に体が驚きと緊張で動かなくなったと言います。
男性は車を降りるなり、月子さんに、こう食ってかかったのです。
「どこ見て運転してんだよ!ここ、一旦停止だろうがぁ!」
明らかに、月子さんの一旦停止の見落としでした。相手は直進道路。月子さんは、T字路でに侵入する際に、一旦停止義務がありました。
「すみません。申し訳ありません。すぐに警察を呼びます」
月子さんが慌てて、警察を呼ぼうとすると、
「ちょっと待ってよ。おれはいま時間がないんだよ。おたくの住所と電話番号を教えてくれたらいいから。おれの方からあとで連絡する」
「いや、でも、それだと困るので…」
「あのさ〜。困ってるのはおれの方。時間がないの〜。急いでんだよ。警察待ってるヒマないの〜。だから、あとで電話するって言ってるじゃん。あのさ〜。警察呼んで困るのはそっちだよ。呼ばないほうがあなたにとってもいいでしょう。ご主人にも迷惑がかかるでしょう」
「えっ…」
この一言が、月子さんの動きを完全にストップしてしまったのです。
(夫に迷惑がかかる?ほんとうに呼ばないほうがいいの?)
その迷いがすべてを悪いほうへと向かわせることになります。
一瞬の迷いのうちに、
「じゃあ、必ず、あとから電話するので」
そう言って、男性の車はその場さっさと走り去ってしまったのです。
交通事故後に自宅に突然訪れた男
数日後、相手の男性が突然自宅に現れました。
法律関係に詳しいと自称する強面の友人男性と二人です。
男性は、車の修理費、首や腰を痛めたので、その治療にかかる金額(ここでは、その金額は伏せさせていただきます)を請求してきたのです。
明らかに、法外な要求でした。この金額を払えば、あとから請求するようなことは一切しない。だから、これだけの金額を全額すぐに支払ってほしいという要求でした。
一緒に話し合いに参加した月子さんの夫は、この要求を受け入れます。
「今からでも遅くないから警察に通報しよう」
月子さんは、そう言って、夫にお金を払わないように言いますが、夫は、
「面倒は避けたい。警察沙汰は僕の仕事上、よいことではない。この金額を払って終わりにできるなら…」
そう言って、相手の要求を全て飲んでしまいました。
結局、相手に払った金額プラス、自分の車の修理代(70万円)の自腹での出費となってしまったのです。
交通事故が起こった時に女性とわかった時点で悪巧みを抱く相手がいる
今回は、月子さんが、加害者です。そこに疑いの余地はありません。
しかし、被害者の男性は、
ぶつけられた怒り。
↓
相手が、いかにも専門知識に乏しそうな、弱々しい感じの女性。
↓
怒声をあげたらすぐに過ちを認めた。
↓
目撃者がいない。
↓
試しに、警察に通報するなと言ったら、女性はすぐに従った。
↓
これは、おいしい状況かもしれない。
↓
事前に連絡をせずに急襲する方法が一番、相手にダメージを与えられるだろう。
↓
とにかく、短時間で現金を手にいれる。
そういう思考の流れで、あっというまに悪人へと堕ちていきました。
月子さんご夫婦は、恐喝の被害者です。
しかし、
あの場で、月子さんが警察に通報していれば、
月子さん夫妻が恐喝の被害者になることもなく、男性が、恐喝の加害者になることもなかったのです。
月子さんの心に巣食った、
(警察に通報しないほうがいいのかも…)
というよからぬ想いが、不幸を大きくしたのです。
正しくない道は、正しくない者を引き寄せます。
トラブルを金儲けの手段と考える、思いつく人間はたくさんいます。
そういう類のビジネスのターゲットに、女性ドライバーは陥りやすいのです。
自分が、加害者になってしまったとき、
誰も見ていないからあわよくば…、なんてことは、絶対にありません。
加害者だろうと、被害者だろうと、事故を起こしたら、寸暇を惜しまず、すぐに110番。
たったこれだけです。
すぐに110番!
たったこれだけで、あなたのやることはひとまずは終わりです。
あとは、流れに任せればいいんです。
気持ちが落ち着いたら、夫や、両親や、恋人や、会社の上司。ありとあらゆるところに電話をして、
「こういうときどうすればいいですか?」
と、聞くのです。
「いま、電話したらダメだよ」
そんなことを言う警察はいません。
そんなことを言う相手は、明らかに、悪巧みを考えています。そう思って間違いありません。
3交通事故の加害者になったケース
実は、恥ずかしい話ですが、わたしが、加害者になったケースも2度ほどあります。
最初は1992年。記者になって間もないわたしは、結婚してすぐに、兄から日産サニーという車を50万円で買いました。取材には、どうしても自分の車が必要でした。
それから、わずか一月後、雨の青山通りを走行中、すぐ前を走っていたボルボが急停車したのです。急に車線変更をした車を避けるためでした。わたしも咄嗟に急ブレーキをかけますが、間に合いませんでした。そのままボルボに追突。
当時、わたしは、任意保険に入っていませんでした。
ボルボの運転手が、先を急いでいると言います。わたしも現場に急行する途中でした。警察を呼ばず、お互いの名前と住所を交換してその場を別れました。
それから、一ヶ月後、ボルボの運転手から連絡が入り。
「後部バンパーの修理代に30万円かかります。それで示談ということでどうですか?」
わたしは、30万円を現金で支払い、ボルボの運転手が作成していた示談書にサインし、お互いに一部ずつ持って別れました。わたしは、サニーの修理に15万円ほどかかりました。もちろん、全て自腹です。
そして、二度目の事故は、17年前。会社の車で事件取材のあと、深夜、会社に戻る途中、ラーメン屋に寄って帰ろうと、路肩に停めようと左に寄せたところ、後ろから走ってきたバイクが左からわたしの車を抜こうとしたのです。ちょうど左に寄せた車と接触。バイクのドライバーはガードレールを飛び越えて、すっ飛んで行きました。
この瞬間、わたしは、
「人を撥(は)ねて殺してしまった〜」
と、思いました。それくらい、ドライバーは飛んだのです。でも、それが功を奏したようで、ドライバーは腕に擦り傷を負った程度で、どこも怪我をしてなかったのです。すっ飛んだ先が、草木の生い茂る草地だったのです。
すぐに警察と救急車を呼び、わたしは警察署へ。ドライバーの男性は、軽症ですぐに自宅へ帰りました。
「自分も無理に抜こうとしたのが悪かった」
と、認めてくれたので、わたしは不起訴になりました。
ドライバーが学生さんだということを聞いたので、翌日、わたしはビールケース(大瓶24本入り)二つを持って、彼の自宅を訪ねました。
そのまま彼の部屋で二人でビールを飲んで、まるで何事もなかったように語り合ったのです。
幸い、わたしは、自分が加害者となったこの二つの事故で、多くを学ぶことができました。
でも、
こんなこと、経験しないほうがいいのです。
経験しないで、いざというときに、冷静に対処できれば、問題はありません。
ただ、それでも、
巻き込まれてしまうこともある。それが交通事故です。
そうなったとき、大切なのは、
知識です。
こればかりは、経験ではありません。
しっかり、知識を持つこと。
自動車保険に書かれていることは、きちんと頭に入れておくこと。
いま、この章は、あなたに必要ではないかもしれない。
でも、
もしものときのために、この章が少しでもお役に立てれば幸いです。
(執筆者:心の冷えとりコーチ 風宏)