「情けは人のためならず」
人に情けをかければ、その情けがぐるりと周って自分のところに戻ってくるのだから、人に情けはかけたほうがいい。と、いうことわざですが…。
情けのかけかたを間違えたら、ぐるりと周って自分のところに戻ってきたころには、違う形になって後ろから追突される場合もある…。
そんな話です。
仕事の不正やハラスメントを庇(かば)う人っていますが、あれはなに?
ギャラのピンハネをわたしが指摘した人物、詐欺太郎(仮名)は、その後、なぜか、わたしにすり寄ってくることが多くなりました。
反省したのかな?
わたしも単純ですし、やはり、”性善説”をもとにビジネスパートナーとは仕事をしています。詐欺太郎氏は、いわば身内。本音は悪い人だと思いたくない。
そもそも、彼は、編集者としては優秀です。仕事に対する情熱も、その当時の編集部にあって、一番だったでしょう。ただ、度が過ぎて、周囲の意見をまったく聞かず、人使いも荒く、一度突っ走り始めたら誰も止められない激しさを持っていました。
「そんな人が、そんなセコイことする?」
普通は、そう思います。わたしだって、そう思っていました。でも、気づいてしまった。気づいてしまったら調査をするのが記者の性(さが)。調査を進めれば進めるほど疑惑は確信になったのです。
彼は、「勘違い」と、言い訳をしましたが、わたしが指摘をしたのは、その一つの事案だけだったので、それだけだったら「勘違い」と言われても納得したかもしれませんが、一度発覚すると、過去の疑惑が芋づる式に出てきます。あれもこれも、実にたくさん。
わたしは100パーセントの確信を持ちました。ただ、周りはわたしを信じるというところまではいきません。被害者Aさんは、
「仮にそうかもしれないけれど、風さんが言うほどのことはしてないんじゃない?」
そう言います。被害者Bさんは、
「勘違いって言っているんだから、いいじゃん」
わたしは、こういうときにいつも不思議に思うことがあります。
加害者と被害者がいて、加害者のことをよく知っている被害者本人や身内に、加害者を庇(かば)うようなことを言う人間が必ず現れるということです。
たとえば、いまも、
「仮にそうかもしれない」と、認めているのに、「言うほどのことはしてないんじゃない?」と、切り返してきます。
「仮にそう」の「そう」の部分は、しっかり調査をして証拠で固めた事実です。Aさんも「事実」と、認めている。にもかかわらず、その「事実」には表現が曖昧になるような「仮に」や「かもしれない」をつけくわえ、「言うほどのことはしていない」と、いう、なんの根拠もない言葉を結論に持ってきています。つまり、「君の言葉を全部信じることはできないよ」と。
次の言葉、
「勘違いって言っているんだから、いいじゃん」
勘違いだったら、「いい」んでしょうか?んなわけないですよね。だって、言っている本人Bさんが被害者です。Bさんは、本音では「いい」なんて思っているはずもないのに、「いい」で、片付けてしまおうとする。
みなさん、よーく思い出してください。こういう場面、実に多くないですか?
以前、「男性上司のパワハラ1」でも、書きましたが、一方的な理由で、なんの落ち度もない女性が暴力を振るわれたとき、それを知った同僚の中には、
「あなた(暴力を振るわれた彼女)も悪かったんじゃない?そうじゃないと普通は暴力を振るわないでしょう」
と、言ってきたり、
「どうせ噂を広めたのはあなたなんでしょう?なにを企んでいるの?」
と、逆に責めてきたり、謝罪すらしない暴力を振るった女性を庇(かば)うように、
「彼女(暴力を振るったほう)もきっと反省してるよ。許してあげたら?きっと悪気はなかったんだろうし」
と、結局なにが言いたいのかわからないことをわざわざ言ってきたり。
その結果、暴力を振るわれた女性は、セカンドレイプというさらなる被害を受けることになる。
こういうことが、あまりに多いと思いませんか?
「普通はそんなことしないよ」「普通だったらありえない。勘違いじゃないの?」「普通はね〜」
この「普通」って言葉、加害者を庇(かば)う人は実によく使います。
そう言って、加害者と被害者の差(距離)を縮めようとするのです。そして、「実は大したことではない」と、それこそ自分の脳みそを勘違いに持っていこうとする。そして、「そんなことは、実はなかったのではないか」と、思い込もうとする。
なぜ、事実を素直に受け入れなくて、わざわざそんなことをするのでしょう?自分の脳にそんなトラップをかけるのでしょう?
それは、やはり、トラブルに巻き込まれたくないからだと思います。
たとえ、自分が当事者であり、それが紛れのない事実であっても、知らんぷりできるなら、していたい。
「あなた、被害者ですよ」
て、別に教えてもらいたくないんです。忘れられる程度の被害だったら、知らんぷりしていたいんです。そんなことで、怒ったり、イライラしたりしたくない。
その程度のトラップで、自分が騙されたと思いたくない。プライドを傷つけられたくない。
だから、そんな被害者心理につけこんで、
「ちょっとお金を貸して」
と、言って借りておきながら返さない友人知人がたくさんいます。そうやって寸尺詐欺は頻発するのです。
被害者が被害届けを出さないから。
「騙された俺も悪い。高い勉強代だったよ。(^◇^)」
なんて、カッコつけて。
それともう一つ。
仕返しが怖いというのも、あるかもしれませんね。本能的にそれを感じ取っている。一度被害者になってしまうと、その流れが連鎖する可能性があります。セカンドレイプやリベンジポルノという言葉が歴然と存在するように、被害がさらに拡大する。その恐れから逃れるために、
自分が被害者だと思いたくない。
だから、加害者を庇う。
「普通は…」
と、いう言葉で、加害者が、自分と同じ「普通」の人間だと意識的に勘違いしようとする。
はっきり申し上げます!
加害者になるような人間は ”普通” ではありませんから。”普通”ではないから、犯罪を犯すのです。
そんな”普通”ではない人間が、自分の身内や同僚であるはずがない。”普通”でない人間が、自分の近くにいるはずがない。
そう思いたいのです。だから、
「普通(の人)はやらないよね」
と、人は言うのです。
そう思い込む事は簡単です。でも、思い込んでも被害は減りません。
「自分は大丈夫」そう思い込む事は簡単ですが、大丈夫である理由にはなっていません。
大切なのは、こういう問題から、被害者自身が逃げない事。
そのことが、とても大切なのだと思います。
考えてもみてください。
同僚は、最初は、友達でも、身内でも仲間でもありません。
ビジネスパートナーという関係から始まっているのです。
その中で、そのうち、仲間ができ、友達ができる。
そうではない同僚は、ずっとビジネスパートナーのままです。
会社の同僚だというだけで、すべてを許すのは間違いです。
わたしは、そう思います。
”普通”ではない人間は、そこかしこにいるのです。それを、しっかり認めるのです。それが、自分が被害者にならない一番の方法です。
社員との信頼関係がなくなるとき(フリーライターの場合)
でも、「何事もなかった」と、思い込むこと全てが間違いというわけではありません。そのときは、被害にあっても、事を大事(おおごと)にしないということが、良い結果を招くこともあります。
前回の号で、同僚記者から、
「正しいことが全てとは限らない」
と、指摘されたわたしですが、やはり、黙っていることはできない。
それは、
まだ、立ち直る余地のある人に、
「それは悪いことだよ」
と、言ってあげないことのほうが、よほど冷たい人間だと思うからです。
若いころ、
「昨日、ガキから1000円カツアゲしたよ」
そう自慢する友人がいたとします。同じ不良仲間たちは、
「ウケる〜」
などと言って、それを咎(とが)めたりしません。果たして、それが、優しさでしょうか?わたしはとっても、冷たい態度だと思います。
だから、「ガキ相手はやめたほうがいいよ。かっこわり〜よ。やるなら大人だよ、大人」
そう言う友人のほうが、まだ親切だと思います。
だから、わたしはついつい言ってしまう。
悪事を指摘すること、それが、わたしの「情け」です。
この性格ばかりはどうにも治らないようです。
その事実を知っても、わたしも貝のように黙っていればよかったのでしょうか?その犯罪を黙って見過ごすべきだったのでしょうか?いやいや、無理無理。やっぱり、本人に言ってしまう。
その結果、わたしは、とんでもない事件に巻き込まれることになるのです。
冒頭の話に戻ります。
詐欺太郎は、わたしから指摘された事案がなかったかのように、わたしにすり寄ってきていました。
この当時、わたしは、岡太郎(仮名)という編集者と3年くらいコンビを組んで仕事をしていました。編集者としての能力でいうと、ズバ抜けたセンスの持ち主で、次々とスクープや話題の記事を世に送り出していました。彼と仕事をするのは楽しくとても刺激的でした。わたしが評価されたのも、彼と仕事ができたおかげといっても過言ではありません。
ただ、彼は口が悪い。
口の悪さもズバ抜けていて、彼の能力を理解できない人からみれば、ただの口の悪い喧嘩っ早い問題児にしか見えなかったかもしれません。彼の下で働く編集や記者で、立ち直れなくなるくらい罵倒(ばとう)された人間はたくさんいます。
そんな彼が、なぜ、わたしと気が合ったかというと、わたしは、彼より年下ですが、彼がどんなに威圧的な態度に出ても、真違っていると思うときは、同じテンションで言い返していました。となると、どうなるか?本気の喧嘩になります。
わたしと岡太郎さんは、ことあるごとにぶつかり、編集部で大声で怒鳴りあうような喧嘩をしていました。
でも、それは、お互いが本気で良い記事を作る上で妥協を一切しなかったからであり、本気で言いたいことを言い合える関係だったからです。
だから、わたしの頭の病気(脳腫瘍)のことを最初に伝えたのも彼でした。術後、最初に見舞いに来てくれたのも彼でした。金銭的な面で、入院中の家族のことを支えてくれたのも彼でした。
しかし、わたしが病気から復帰したとき(2001年)には、彼はすっかり仕事に対する意欲を失っていました。編集部にいる時間が少なくなり、ネタを探してくることもなく、さっさと退社してしまう。ことあるごとに、「ああ、もうこの仕事飽きたな〜。異動したいな〜」と、言うようになっていました。だからといって、一つ一つの案件をしっかりコントロールしてくれれば文句はないのですが、それも適当。わたしは何度も爆発しました。
「もっと真剣にとりくんでください」「いいんじゃない、適当で」「だったら担当するなよ!」「俺だってやりたくないんだよ」「こっちまで巻き込むなよ!」
そんな言い合いを幾度やったことでしょう。「ああ、また、始まった」と、周りが呆れるほどの険悪な雰囲気が、わたしたち二人を覆っていました。
社員が同僚を蹴落とすためにフリーライターを利用しようとする悪魔のささやき
そんなとき、編集部ナンバーツーの上司がわたしを呼びました。
「実は、岡太郎のことで聞きたいことがあるんだけど」
「はい」
「実は、岡太郎のことで、まことしやかに変な噂が出ている。彼のことに詳しいきみにいろいろ聞きたいと思うんだが、いま、時間ある?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ、ここで話すのもなんだから、外に行こう」
そう言って、連れてこられたのが、会社の近くの喫茶店でした。わたしとその上司が席に着くなり、
「遅れました。もう、話始まってます?」
そう、言いながら次に現れたのが、詐欺太郎でした。わたしには、事情がさっぱり飲み込めません。岡太郎にとって、よくない話であることは、わたしもわかりました。
上司「実は、岡太郎が会社のお金をごまかしているって話があってね…」
わたし「えっ!?」
上司「そうなんだよな〜?」
詐欺太郎「はい。どうやらそのようですね〜」
詐欺太郎が物知り顔でうなずきます。
わたし「はっ!?」
わたしは、詐欺太郎の顔をマジマジと見ました。詐欺太郎の表情はまったく変わりません。その詐欺太郎が口を開きます。
詐欺太郎「これはあくまで噂なんだけどね。あの人(ちなみに詐欺太郎は岡太郎の後輩です)、最近、編集部にあまりいないよね。どうやら、会社を抜け出して近くに住んでいる愛人のところに行っているらしいんだよ。そういうこともあって、全然仕事そっちのけでしょう。風くんもそうとう迷惑を被っているよね」
上司「そうなの?(わたしに向かって)」
わたし「愛人のことは知りませんが、仕事に関しては確かに困ることが多いです」
上司「具体的にはどういうことがあった?詳しく聞かせて欲しいんだけど。こういう記事をやったときはどうだったとか。経費のこととかも調べたいから、思い出せるだけ全部、話してほしいんだよ」
わたし「岡太郎さんが会社のお金をごまかしているって、本当ですか?根拠あるんですか?」
上司「あるんだろ?(詐欺太郎に向かって)」
詐欺太郎「ええ、まあ、いまいろいろ調べてるんで。まだ、はっきりとはしてませんけど、いろいろ言っている人もいるんで。だから、一番彼のことに詳しい風くんに聞きたくってさ」
わたし「じゃあ、証拠があるわけじゃないんですよね」
詐欺太郎「いまはね。でも、確実にやってると思うよ。毎晩、六本木で飲み歩いてるしね。普通、愛人囲えないでしょ。限りなく黒に近いと思うな」
わたし「・・・・・」(それはおまえだろ!)
思いましたが、口にはしません。上司が詐欺太郎の悪事のことを知らない可能性があります。それ以前に、こうやってわたしの眼の前で抜けしゃあしゃあと言い放つ詐欺太郎の心理がまったく理解できません。わたしと目を合わせてもまったく動揺が見られないのです。普通では考えらません。
そう、”普通”では…。でも、彼は、普通じゃない。
わたしは、岡太郎に関して、思いつくことは、正直に話しました。ある格闘家が恋人に暴力を振るい、裁判所に訴えられるという出来事がありました。その格闘家に取材を申し込むのですが、彼は、めっぽう手が早く、過去に何度も問題を起こしている。危険なので、5、6人で乗り込んで取材しようということになりました。しかし、彼の周りには常に7、8名のボディーガードのような屈強な弟子たちがくっついています。
かなり、危険です。
担当は、岡太郎。もちろん、岡太郎も現場に一緒に行きます。かつての彼だったら、周りの制止も聞かず、自分で勝手に乗り込むような男でしたが、いまの彼は違いました。敵前逃亡したのです。わたしたちが現場でもみ合っている間に、岡太郎はどこかに消えてしまいました。
「あの現場で彼への信頼は完全に失われました」
基本、そんな話です。
わたしには、愛人のことや、お金のことに関してはわかりませんでした。岡太郎は、少なくとも、詐欺太郎が記者カメのギャラをピンハネしたような、そういうセコさはまったくありませんでしたから。
わたしの口から出る岡太郎への不満は、すべて、記者と編集者としての関係から生まれる軋轢(あつれき)や、仕切りの悪さから生まれる現場のトラブルなどについてでした。
「なるほど、わかった。ありがとう。こんなもんでいい?」
その上司は、そう言って、詐欺太郎に聞きます。
詐欺太郎「はい。十分参考になる話を聞くことができました。風くんありがとう。ところで、岡太郎さんは、もう異動ですよね。こんなことじゃ、このまま編集部には入られませんよね」
上司「そうだな。そんなやつじゃないと思ってたんだが、残念だな」
詐欺太郎「風くん。いっそのこと、おれと一緒にやらない。岡太郎さんとやるよりは、おれとやったほうが絶対にいいよ」
わたし「僕はただ、岡太郎さんに仕事をきちんと真面目にやってほしいんですよ。あのままだったら、僕ももう無理ですよね」
詐欺太郎「そうだよね。風くん、考えといて。ほんとうに今日はありがとう」
それから、一週間後、月曜の朝、一人の若い編集者がわざわざわたしに電話してきて、こんなことを言いました。
「風さん、朝、会社に来て、パソコンを開いてみたら、社内ランを使って、全社員にメールが届いているんです。それは、風さんが、岡太郎さんを告発する内容です。これ、ほんとうに風さんが書いたんですか?」
わたしは、全身の血が一瞬のうちに、すべて下に落ちていくのを感じました。
「ハメられた……」
お話はつづきます。
(執筆者:心の冷えとりコーチ 風宏)
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風 宏(Kaze Hiroshi)
心の冷えとりコーチ
冷えとり歴13年目。靴下6枚ばき、半身浴20分。最近お酒がやめられるように変化した2015年2月4日より、女性のための問題を解決するブログを開始。2016年9月GCS認定プロフェショナルコーチ資格取得。女性のための心の冷えとりコーチング講座も開催。