今では離婚も当たり前になってきました。
結婚後1年で離婚した友人は、相手が生理的に無理となりました。
足が臭いということが離婚の原因にもなるのです。他人から見たら笑える話ですが、当人たちにとっては深刻です。
他人を不快にさせることは、身内も不快にさせるものなので、自戒を込めて気をつけたいものです。
結婚から1年後の結婚記念日に
結婚から1年後の結婚記念日に、夫が仕事を終えて帰宅してみると、家の中はもぬけの殻でした。その日から約半年後、夫は妻の顔を一度も見ることなく離婚が成立。
そんな二人のエピソードです。
クサオさん(仮名・25)は、大手メーカーに勤務していました。奥さんの蝶子さん(仮名・23)は会社の同僚で、クサオさんは4大卒で蝶子さんは短大卒なので年齢こそ2歳違いですが同期でした。
入社直後から交際を始め、2年間交際ののち、結婚します。
しかし、当初、クサオさんの両親は結婚に大反対でした。それは、蝶子さんが良家の子女だったからです。大手メーカーの創業者一族のお嬢さんだったのです。しかも長女。彼女には弟がいるので養子を取る必要はありませんでしたが、父親は婿には将来、メーカーの仕事を継げる人物を探していました。
クサオさんは、地方出身者で父親は公務員。そして、クサオさんも長男です。
クサオさんの両親は、
「田舎者育ちのお前をいいなんて言っているのは最初だけで、結婚したら今まで育った環境の違いがすぐに出る。向こうとは、物の価値観も育った環境も違いすぎる。うまくいくはずないよ。それに、そのうち必ず養子に入れと言ってくる。だからやめておけ」
そう説得します。一方の、蝶子さんの母親も、同じような不安は感じていました。しかし、蝶子さんの父親は、
「クサオくんは豪快なやつだ。飲みっぷりもいい。気に入った」
そう言って大層気に入り、結局は、そのことが後押しとなり結婚します。
しかし、結婚式の1年後、蝶子さんは結婚記念日を選んで家を出て行きます。
「お願いです。離婚してください」
との、置手紙を残して。
では、離婚したいその理由とは、なんだったのでしょう?
「足が臭いから」
………。
当事者不在の話し合い
20代前半で結婚したクサオさんと蝶子さん夫婦の生活はちょうど1年でピリオドを打ちました。
結婚記念日に仕事から帰宅したクサオさんが自宅マンションに戻ると、蝶子さんが家財道具一切とともに消えていたのです。
クサオさんにとっては寝耳に水というか、狐につままれたというか。
クサオさんは奥さんの実家に電話を入れます。すると、電話に出た蝶子さんの母親は、
「娘にどれだけ酷い仕打ちをしたか、自分の胸に聞いてみたらどうです? 近いうちに訴状が届きますから、それを読んでください。娘と直接、会わせるわけにはいかないので、話をしたいときは、弁護士を通りしてください。私たち家族はあなたのことを一生許しません。一年間娘を苦しめた償いはしてもらいます」
それはそれは、ものすごい剣幕なのです。
クサオさんは、「自分の胸に聞け」や「訴状」「弁護士」「一年間苦しめた」。これらの言葉を一体どういう理由で突きつけられたのか、さっぱりわかりませんでした。
つまり、なぜ、蝶子さんが家を出て行ったのか、まったく思い当たる節がないのです。
直接、電話をして話をしようにも、蝶子さんに代わってもらえない。母親はああいうばかりで、自分が何をしたのか教えてくれない。仕方なく、クサオさんは蝶子さんの父親の会社へ出向きます。しかし、面会させてもらえません。あれほど、「気に入った!」と言って、家を訪ねれば酒を酌み交わす仲だったのに、会わせてももらえない。
八方ふさがりとはまさにこのことでした。
クサオさんは、両親に相談します。
当然、両親はまずクサオさんの浮気を疑いました。しかし、浮気はしていないと主張します。では、暴力? 絶対にない!と、言います。あとはなんだ? じゃあ、ギャンブルか? やったことすらない。酒か? お酒は大好きだからちょっと飲み過ぎることはあるけれど、サラリーマンだし付き合いもあるし、蝶子さんは元同僚だし、それくらいの理解はある。との答え。
「じゃあ、一体なんなんだ?」
「わからないから困ってんだよ」
両親は、蝶子さんの両親とコンタクトを取ろうと試みます。しかし、電話口に出た母親は、
「娘は憔悴しきって、精神的なバランスも崩している。もう、弁護士さんにお願いしているので、お話しすることはございません」
まったく取りつく島もない。
そんな時、クサオさんから私の元に連絡が来たのです。
「風にお願いがあるんだけど。蝶子に会って、詳しく聞いてきてくれないか?」
実は、この話、今から20年ほど前の出来事です。わたしはクサオさんに紹介されて蝶子さんとは、2、3度ほど会ったことがありました。
クサオさんが、彼女の母親に何度も電話をし、
「どうか理由を教えてください。お願いです。一度だけでも蝶子と直接話をさせてください」
そうお願いした結果、母親が、
「あなたの友人の風さんという方だったら、会って話をしてもいいと娘が言ってます」
結果、わたしに白羽の矢が立ったのです。
「だから風、頼む」
とはいえ、わたしも蝶子さんとは、ほとんど会話という会話をしたことがない。ランチを一緒に食べて、結婚後、一度か二度、自宅を訪問した程度でした。
わたしが電話をかけ、蝶子さんの母親と日程を調整し、会ったのはそれから数日後。蝶子さんの自宅近くの喫茶店でした。しかし、待ち合わせ場所には蝶子さんは来ず、やってきたのは母親一人。
「体調が良くないので、今日はわたしがお話をさせていただきます」
まったく当事者ではない、妻の母親と夫の友人という、なんとも奇天烈なシチュエーションでした。今、思い出しても、あれはなんだったのだろう?と思ってしまいます。
離婚原因は、人間だったから?
蝶子さんの母親は、不機嫌な表情を隠すこともなく、今までの不満をぶちまけるといった感じで話し始めました。
「娘は本当に大事に大事に育ててきたんです。わたしたち両親の愛情をいっぱいに浴びて。蝶子はパパのことが大好き。ずっと「パパと結婚したい」って言っているような無邪気で可愛らしい子どもでした。もちろん、厳しくも育てたので、結婚までお付き合いした男性は一人もいません。そのことは、ご存知?」
「いえ、知りません」
「そう。蝶子はなぜあなたとだったら話してもいいって言ったのかしら?」
「さあ。わたしにはよくわかりません」
「まあ、いいわ。蝶子がクサオさんのどこに惹かれたかご存知?」
「なんか、ビジュアルがとても大好きだとは伺いました。あと、彼は地方出身なので、田舎くさいというか、そういうところじゃないですか?『こんなクマみたいな男の人がいるんだってびっくりした。ぬいぐるみみたいでかわいい』っておっしゃってましたから」
「そうね〜。クマね。そうよね〜。クサオさんはパパにとっても似ていたの」
「お父様にですか?見た目ですか?」
「そう。パパもとってもクマみたいに大きな人だから、初めてパパみたいな人に会ったって喜んでいた。わたしも一目見て気に入ったもの。クサオさんのこと。見事に騙されたわよ、わたしも蝶子も。あんなに酷い人だとは思ってもいなかった」
「彼が何をしたんですか?」
「あなた、本当に何もクサオさんから聞いてないの?」
「彼は、本当になぜ出て行ったのか、さっぱりわからないって言ってましたよ。浮気もしてない。暴力もふるったこともない。お金もほとんど使わない。だから何が原因なんだろうって」
「そんなの当たり前です。浮気とか、暴力って…。やっぱり、彼は全く蝶子の気持ちがわかってなかったのね。そりゃそうよね、あんなにズボラじゃあ。クサオさん、とっても不潔なのよ」
「不潔?お風呂に入らないとか?」
「そう。その通り」
「お風呂に入らないから?」
「あの人、足がとっても臭いの。ご存知?」
「はい。臭いですよね〜。彼の足の臭いには私も気づいてまして、会うたびに「足が臭いよ』と注意してました。座敷の居酒屋なんかに行くと、もう臭くて臭くて。しかもすぐに裸足になるんですよ。で、その辺に靴下置きっぱなし。もう最悪。そうですね。あれは、臭いです。でも結婚して直ったと思ってたんですけどね」
「全然」
「そうだったんですか。それはダメだな〜」
「でも、それが離婚の理由だと言ってもクサオさんもあちらのご両親も納得されないでしょう?」
「そうですね〜。なんじゃそりゃって話になりますね」
この辺りになると、わたしは(なんだか面白い展開だな〜)と、ちょっと楽しくなってきていました。だって、「足が臭いから別れたい」って、まあ、気持ちはわからないでもないですが、離婚理由としては、「は?」です。
当然、(クサオは絶対納得しないだろうな〜)と、思いつつ、蝶子さんの身になってみれば、(そんなことが許せないんだったら絶対復縁は無理だろうな〜。てか、そもそも価値観が違いすぎるな〜)と、そもそもが間違いだったと感じざるをえません。
「でも、足が臭いことは結婚前からわかっていたので、蝶子は何度も言っていたそうです。一緒に暮らすようになったら、きちんと足を洗ってね。会社では裸足にならないでねって。クサオさんは『なんでも蝶子の言うとおりにするよ』って。でも、全然約束を守ってくれなかった」
「具体的にはどういう?」
「彼は、『今日は早く帰る』と言って出て行っても、ほとんど約束を守ることはなくて、お酒を飲んでいつも午前様。蝶子が夕食を作って待っていても『遅くなる』と連絡もしてこない。帰ってくると、そのまま靴下だけ脱いでソファーにドカンって横になってスーツのまま寝てしまう。蝶子がお風呂に入ってとお願いしても起きない。クサオさん、あの巨漢でしょう。テコでも動かないそうです。だから、蝶子があの臭い足を全部拭いてあげるんです。それを毎日ですよ。あなた耐えられます?」
「…耐えられませんね」
わたしは、こみ上げる笑いを堪えるので必死でした。
「それだけじゃありません。付き合っていた頃はたくさん美味しいお店に連れて行ってくれたそうです。たくさんプレゼントもくれたそうですよ。本当に優しかったって。でも、結婚したとたん、どこにも連れて行ってくれない。プレゼントをもらったことも一度もない。旅行だって新婚旅行以来、一度もないんですから」
「釣った魚に餌をあげない男ですね」
「そう!そうなの!よくお分かりね」
「ええ。まあ。彼はケチですからね〜」
「え? そうなの?」
「そうですよ。彼のケチは友人の間では有名ですよ。蝶子さんも付き合ってたんだったら判っていたんじゃないですかね〜。だって二年間も付き合っていたんですよね。で、結婚したらそういうもんじゃないんですか? 共働きじゃないし、彼の給料は二人のお金だし。給料もそんなに高くないでしょうから」
「だからって、そこまで急に変わったら蝶子だってびっくりしますよ」
「そうですね。びっくりしたんでしょうね。彼も自分のケチを隠してたのかもしれないし」
「そうでしょう。ひどいでしょう?」
「蝶子さんがそう思ったのならそうでしょうね。でも、クサオやクサオのご両親にこのことを言ってもわからないだろうな〜」
「そうよね〜。そもそも価値観が違うものね〜」
「そうなんですよ。価値観というか、環境が違いすぎるんですよ。でもね、お母さん、これが庶民の生活なんですよ」
「そうなのよね、きっと。わたしもよくわからないけど…。だからってお風呂には入るでしょう? 普通」
「入りますね。彼は特別不潔ですからね。だから、なんで蝶子さんがクサオと結婚したのかな?って」
「彼が可愛かったのよ。クマさんみたいで。初めて理想の人に会ったって喜んでたもの」
「でも、クサオは人間ですからね」
「人間だったらもうちょっと清潔にしてほしいわよ!」
「人間だけど、クマに近いんでしょうね。そこは蝶子さん間違ってなかったんだけどな〜。でも、一緒に暮らしてみたらクマじゃなくて人間だったから、お風呂には入ってほしいと思ったんでしょうね〜」
「……風さんっておもしろいわね。蝶子が風さんとだったら話してもいいって言った意味がちょっとわかる気がするわ」
「そうですか? ありがとうございます。でも、二人の方がよほどおもしろいですけどね。あ、こんなこと言っちゃあいけませんね」
「いいのよ。わたしは最初からこの結婚には反対だったんだから」
「お母さんは正しかったと思います。ところで、蝶子さんのお父さんはなんておっしゃってますか?」
「すごく落ち込んでいますよ。蝶子にもクサオくんにも悪いことしたって」
「どうしてお父さんはクサオに会ってあげないんですか?」
「わたしが会わないように釘を刺したから。もう弁護士さんにお願いしてるのに、話がややこしくなるでしょう。男はすぐに、まあいいか、みたいに、なあなあにしてしまうでしょう」
「そうかもしれませんね。で、肝心の蝶子さんは?」
「神経衰弱のような状態になってしまって、心療内科に通っています」
「そんなに…。原因は全てクサオにあると?」
「もちろんです。蝶子にとってクサオさんが初めて好きになった男性だったのですから」
「あの…、こんなことを伺ってよろしいかどうか」
「なんでも聞いてください。風さんは信用できそうだから」
「結婚前にその、性交渉っていうのは…」
「もちろんありませんよ」
「そうだったんですか。じゃあ、それもショックだったのでしょうか?」
「もちろんそうでしょう。あんな不潔な男ですからね」
「では、イヤイヤ」
「もちろんそうでしょうよ!」
「そうですか。蝶子さん、思ったことをはっきり口にできる性格ではなさそうでしたもんね。我慢してたんですね」
「蝶子が風さんに伝えて欲しいって言伝があります。二度か三度お会いした時、その度に風さんは、『本当にこんな男でいいんですか?』っておっしゃって、『クサオの不満があったらなんでも僕に話してくださいね』っておっしゃってくれていたそうです。今思うと、あの時に我慢しないで相談していればよかったって言っておりました。そうすれば、こんなことにはならなかったかもしれないって。私は、相談しても結果は変わらなかったと思いますけどね」
「そうですか?いずれにしろ、復縁は100パーセント無理ってことですね」
「そうです。それと、クサオさんのご両親に伝えて欲しいことが一つだけあります」
「はい。責任を持って伝えます。なんでしょう」
「結婚後、一度、二人の家にクサオさんのご両親が宿泊に来たことがあったの。それも連絡もなく、突然よ。ご両親が来るのなら、蝶子もきちんともてなしをしたいじゃない? でも突然だったから、蝶子がお友達と二泊三日の旅行に行くタイミングで来られて、二泊されたんですけど、蝶子が旅行から戻ってきたら、お義母さんが蝶子のトレーナーを着ていたらしいの。そして、洗い場には蝶子のごはん茶碗やお箸が置いてあったらしいわよ。勝手に使ってたのね」
「それは嫌ですね〜」
「そうよね。それが普通の感覚よね」
「それで蝶子さんはちゃんとお義母さんに言ったんですか?言えないか」
「言えないわよね。でも、ご両親にクサオさんがお風呂に入ってくれないことや靴下を脱ぎ散らかすことは言ったのよ。『お義母さんからも注意してください』って。そうしたら、『クサオはだらしないのよ。あの子はいくら言っても直らないのよ。無理無理』そう言って笑ったそうよ。蝶子はそこで諦めたのね。『親もそうだから勝手に人のお箸を使えるんだ』って」
「わかりました。責任もってきちんと伝えます」
「ありがとう。あなたとお会いすることは二度とないと思うけど、今日はお話ができてよかった」
「こちらこそ、ありがとうございました」
失敗を糧とすれば、必ず成功に転化する
この時の会話を、蝶子さんの母親の許可を得て、クサオさんとご両親に全てお伝えしました。
「全然、意味がわからない。浮気や暴力だというのならまだしも、理由になってない」
もちろん納得などしません。ただ、
「全く世界の違う人の話を聞いているみたいだ」
とも。ご両親はすぐに、
「最初からこの結婚は間違いだった」
と、気持ちを切り替え、「離婚に応じるように」と、クサオさんに言いますが、クサオさんにはやはり未練があるようでした。しかし、それから半年後、裁判所から訴状が届きます。蝶子さんからの訴状。
「一年間の結婚生活によって精神的苦痛を受けた」「心療内科に通っており、神経衰弱と診断された」などとあり、「慰謝料300万円を請求する」と、いうものでした。
クサオさんは、納得せず、「争う」と言ってましたが、両親が、
「あんな家とはさっさと縁を切ったほうがいい。争っても向こうは優秀な弁護士を抱えているだろう。戦っても勝てる相手ではない。300万円払って縁が完全に切れるのなら安いものだ」
そう言って、ご両親が全額支払いをして全てが終わりました。
その後、蝶子さんがどうなったか、クサオさんにもわかりません。もちろん、わたしにもわかりません。
クサオさんは、離婚から2年後、再婚をしました。お相手は、同じ会社の同期の短大出の女性。
あれ?どこかで聞いたことがあるような経歴。
そう思った方。鋭い!
そうです。クサオさんの再婚相手は、蝶子さんの同期。しかも、かつての親友。しかも、この女性は、蝶子さんとは比べ物にならないほどのスーパーセレブなお嬢様。しかも長女。
「ウソでしょ?」
クサオさんのご両親もわたしもクサオさんから再婚の話を聞いた時、全く同じセリフを吐いてしまいました。
「リベンジのつもり?」
わたしの問いにクサオさんは、
「お前に言われるまで、ここまで前の奥さんと一緒だって全然気がつかなかったよ」
ちなみに彼の足は未だに臭い。ケチでデブで、お酒が大好き。彼は何一つ変わりません。
しかし、今の奥さんはそんなズボラな彼の世話が楽しくて仕方がないようです。実は、クサオさんが蝶子さんと結婚した時、一人陰で泣いていたそうです。奥さんはずっとクサオさんのことが好きだったのです。クサオさん、良家の子女になぜかモテモテ。今では、子供もいて、幸せな家庭生活を送っています。
離婚のお話の続きは、離婚について4「愛は憎しみに!離婚でストーカーされる」をご覧くださいませ。
(執筆者:心の冷えとりコーチ 風宏)