パワハラ

言葉が全く通じない相手とのコミュニケーション6 〜パワハラ4〜

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時給で働くことの意味

 

佐江照さんへの風当たりはどんどん強くなっていきました。

 

彼女は、時給で働いています。

とはいえ、彼女が任されている仕事は事務系ソフトを使った会計作業に加え、語学が堪能であるため外国との連絡、メールの作成、そして、部署の雑用とかなり多くの仕事を要求されます。

 

それは最初から派遣先が求めていた能力だし、その能力に見合った報酬を支給するということで、佐江照さんの時給は2千円と、かなりの好条件です。

 

しかも、働き始めた途端、部長は彼女の総合職としての能力に気づき、企画会議への参加、企画書の提出など、やる仕事が日に日に増えてきました。

 

そんなある日、

次長から、半月後の休日に、出勤をしてほしいとお願いされます。

「来月の第1週の土曜日に取引先との打ち合わせが入ったので、できればその日、出てもらって手伝ってほしいんだけど。もちろん、どこかで代休を取っても構わないから」

佐江照さんは、その翌週の水曜日に代休を取ることを決め、了承しました。

しかし、当日の曜日の朝になって突然次長が、

「打ち合わせがキャンセルになったから、今日は休んでください。水曜日の代休はそのまま休んでもらって構わないから、お願いしますね」

と、いう連絡が入ったのです。

 

しかし、翌週の月曜日、会社に行くと根田見さんから、

「土曜日は結局、働かなかったんだから明後日の水曜日の代休は出勤してくださいね」

そう言われたのです。

 

しかし、佐江照さんは次長から休んでいいと言われていたし、予定を入れてしまったので、

「すみません。予定を入れてしまったので出られません」

そう言いました。

「あ、そう。仕方ないわね」

そこは根田見さん、すんなり引き下がりました。

 

その後、佐江照さんに派遣会社の担当者から連絡が入り、

「土曜日は出るつもりにしていて当日キャンセルが入ったんですよね。それに半月前に変更の打診もありましたよね。その場合は、会社側の都合で佐江照さんが1日働けなくなったので、土曜日のお給料はきちんとお支払いしますのでご安心ください。会社との契約もそのようになってますので」

と、言われたのです。

 

 

見て見ぬ振りしてるけど、みんなパワハラの存在を知っている。

 

 

しかし、その翌日のことです。

違う部署の全然話をしたことがない女性が、佐江照さんに声をかけてきたのです。

「ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう?」

「伝えといたほうがいいと思って・・・。実は、根田見さんがあなたの悪口をいろんな人に言ってるみたいだけど大丈夫?」

「いえ・・・・どんな?」

「あなたが『代休を取ったのは会社の都合なんだから、その分の給料を払え』って派遣会社に言いがかりをつけてきたって。『大人しそうに見せてるけど、裏ではそういうことを平気でやる人だよ。だから気をつけたほうがいい』って」

「ひどい・・・・・」

「やっぱり根田見さんの作り話なんですね?」

「もちろんわたしは請求してないし、そんなこと言ってません」

「だと思ってました。わたしも根田見さんにやられた人間だから。女子社員は大抵一度や2度はやられているので、『ああ根田見さんの今のターゲットは佐江照さんなんだ』って女子社員はわかってますよ」

「そうなんですね・・・」

「でも、男性にはわからないんですよね。みんな根田見さんの話、鵜呑みにしちゃうから・・・。『少しは根田見さんの悪意もあるだろうけど、火の粉のないところに煙は立たないから佐江照さんにもそれなりの非があるんだろう』って。男って全然わかってないですからね。火の粉があろうがなかろうがやるやつはやるってこと」

「そうですね・・・」

「辛いだろうけど負けないでね。女子社員はわかってるから」

「ありがとうございます」

 

だからと言って、誰か女性社員が矢面に立って根田見さんに忠告してくれるわけでも一緒に抗議をしてくれるわけでもありません。

 

火の粉が自分に降りかかることだけは誰もが避けたい。

 

あくまで、対岸の火事は対岸の火事のままで、対岸から、

「気をつけてねー」

「逃げろー」

と、声をかけるだけ。

 

それでも、佐江照さんには励みになりました。

 

結局、会社内では自分一人で戦うしかないけれど、

パワハラを受けていることをみんなが知っている。

 

そうです!

 

みんな見てぬふりをしているだけ。
みんなパワハラの存在を知っているんです。

 

 

佐江照さんは派遣会社にこのことを伝えました。

 

一つ一つのことをしっかり伝えるということも、心を折らない一つの方法です。

 

派遣会社の担当者は、

「私は佐江照さんの土曜日の日給分を会社に請求書を送っただけなので、根田見さんとは直接お話はしてませんよ。それは根田見さんの嘘ですね」

と、教えてくれました。

「わかっています」

「しかし、根田見さんの態度は明らかに”変”ので、これ以上ひどくなったら何か手を打たなくてはなりませんね」

 

派遣会社が何か手を打つことは実際にはないだろうということはわかってました。

でも、担当者がそう言ってくれるだけでも佐江照さんには励みになります。

 

 

裏をかけ!

 

 

その一週間後のことです。今度は次長から、

「今日は明日の打ち合わせのための資料作りを手伝って欲しい。申し訳ないけど残業してもらえるかな?」

と、頼まれたのです。

しかし、残業する場合には事務責任者の根田見さんの許可を得なければなりません。

 

佐江照さんがその件を根田見さんに伝えると、

「あなたは時給がとってもお高い派遣さんなので、残業しないでください。残業代を派遣に払うほどの余裕はないですから」

 

仕方なく、佐江照さんは、社員であるもう一人の事務職員の女性と昼休みも返上して資料作りを行いました。

しかし、終業時間の6時を過ぎても作業を終えることはできません。根田見さんは必死に作業をする二人を尻目にさっさと帰宅準備をして会社を出て行きます。

次長は外に出たきり戻ってきません。

佐江照さんは、

「わたしの残業代は結構ですし、派遣会社には申請しないのでこのまま作業を進めましょう」

そう事務職員に言って、結局、2時間ほど残業をしたのです。

 

その翌日のことでした。

 

根田見さんが佐江照さんに、こう聞いてきたのです。

「もしかして昨日、あの後、残業したんじゃないでしょうね?」

「しましたけど、わたしが勝手にやったことなので派遣会社には申請してませんよ」

「残業したの?なに勝手なことをしてるの!」

「ですので、申請はしませんので、ご迷惑はおかけしていません」

「残業代は払わないわけにはいかないのよ!そういう契約になってるの!だからやるなって言ったじゃない!あなたはどこまで銭ゲバなのよ!」

 

あまりにひどい言われようですが、佐江照さんはあえてこう言い返したのです。

 

「え?残業代いただけるんですか?本当ですか?根田見さん、ありがとうございます!でも、それってわたしのせいで根田見さんの立場が悪くなりますけれど、大丈夫ですか?本当に申し訳ありません。二度とこういうことがないように次長には、わたしは残業ができないとちゃんと伝えておきますね」

 

佐江照さんのこの態度に、根田見さんは一瞬、二の句が告げなかったそうです。

 

そして、

「勝手な残業はやめてください。どうしても残業しなければならない時は必ず事前に言ってください!」

「じゃあ、残業してもいいんですね?」

「ダメです!ダメですが、次長からの依頼でどうしてもやらなければならない時だけです。次長にはわたしから伝えておきます

「大丈夫です。次長にはわたしがちゃんと伝えますから」

「わ・た・し・が伝えます!あなたからは何も言わないように!」

「わたしが伝えたほうが正確に伝わると思うんですけど。大丈夫ですか?」

「あなただから信用できないの!」

「あ、そうなんですね。わかりました。よろしくお願いします」

 

 

相手は権力を笠に着た、いわばパワハラのプロです。

こう言えば相手はこう返すだろうと想定しています。その返しをさらに叩く。

パターンを想定して口撃してきます。

当然、相手の傷つく言葉、人から一番言われたくない言葉を選んで執拗に浴びせてくるし、相手が言い返せない理屈を絡めてきます。

非常に巧妙なのです。

ただ、彼らにも欠点があります。

想定外の反応には弱いということです

 

想定の反応を期待して、そこに快感を求めてパワハラをしてくるわけです。

つまり、期待通りの反応が返ってくるものだという思い込みがあります。

そこさえわかって、その通りの反応をしなければいいわけです。

 

裏をかくのです。

 

そのためには、前回も書きましたが、準備をしておかなくてはなりません。

パワハラは突然、飛んできます。

パワハラを仕掛けてくる人間は、相手の油断をついてきます。揚げ足を取るのが非常にうまい。

やられた側は慌てるし、傷つくし、平常心でいられなくなります。

動揺し、言葉に詰まります。何も言い返せなくなります。

やった側は、その反応を野良犬のようによだれを垂らして待ち構えています。

だから、その餌を与えてはならないのです。

 

そのためには、

「パワハラいつでもこい!」

と、いう覚悟と、裏をかく冷静さが必要となるのです。

だから、準備はとても大切なのです。

 

 

「でも、それをやると、さらにいじめがエスカレートする。パワハラがさらにひどくなる可能性はありませんか?」

確かにありますが、チャレンジする価値はあります。

佐江照さんは、そこにチャレンジしたのです。

根田見さんはあの瞬間、

「この人天然?」

「それとも、わたしの嘘に気づいてる?」

「この人、わざとトボけてるの?」

そう感じたと思います。ちょっと扱いづらいかな?読めないな?そう思ったのだとしたら、佐江照さんのチャレンジは成功したと思ってもいいでしょう。

 

次回は、ついに次長が佐江照さんに牙を向きます。

人間関係はさらに複雑になっていきます。

佐江照さんはその波に飲み込まれてしまうのか?

それとも、

その波を利用して、うまく乗りこなすことができるのか?

つづく