私の結婚の基準は、配偶者のために死ぬことができるかということでした。
そのくらいの覚悟を持って、結婚を考えました。
完全な自己満足です。おかしいですかね?
私たち夫婦は今年で結婚生活28年です。
山あり谷ありだからこそ、面白いのが家族を作るということです。
幸せな気分になる自己満の世界
わたしは30歳の彼女にこういう質問もしてみました。
「彼のために死ねる?」
「え〜?……死ねない」
「死ぬということを文字通りに考えなくていいよ。彼のために死ぬ気でできる?ってこと。たとえば、彼の事業が失敗して、突然無一文になって借金を抱えて、一緒に貧乏をして、一からやり直すとか。それこそ、本当に死ぬ気でやらないとヤバイ状況に置かれたときとか。どう?」
「どうですかね〜。ん〜」
「じゃあ、お父さんやお母さんのために死ねる?」
「あ〜。お母さんだったら死ねるかな〜?お父さんは無理(即答)。風さんは奥さんのために死ねます?」
「死ねるよ。もちろん子供のためにも。あなたには親友いる?」
「いますよ」
「親友のために死ねる?」
「え〜?いや〜。どうだろう。……無理ですね。死ねないです。風さんは?」
「死ねると思う」
「ホントですか〜?」
「そっちのほうが世のため人のためになると思えたら死ねる。それが、自分のためでもあるから。なんで、自分は生きてるの?なんで、自分は生かされてるの?自分は誰のために生きてるの?そういうことを、常に考えてるよ。こういう災害が起きた時は自分はどう動けるだろうか?災害や人命救助のために働いている人は、人のために命を捨てられるのに、自分が捨てられない理由はなにか?子供が目の前で溺れていたら、自分だったらどう行動するだろう。助けられるか、助けられないか、瞬時の判断が果たして自分にできるのか?常に考えてる」
「なんで、そんなこと考えられるんですか?」
「覚悟。常に覚悟を持って生きていたいと思うから。いざというときにカッコ悪い人でいたくない」
「自己満ですか?」
「その通り!自己満。人のために尽くすことができたら、こんなうれしい自己満はないよ。自己満で社会貢献できるんだよ。もちろん、こういう考え方を人に押し付けるようなことはしないけど、決して悪い考え方じゃないと思うよ」
「なんか偉いですね。わたしには無理かも」
「別に偉くないよ。自己満だから。だって、恋愛だって何だってある意味、自己満の世界でしょう。歳を取ると、社会貢献や人のために何かすることで自己満が満たされるようになるんだよ。いまは、わからなくてもいいよ。おそらく、もっと歳を取ったら少しは理解できるようになると思う。ただ、気をつけなくてはいけないのは、勘違いをしないこと。自分の自己満が愛する人のためになっていると勘違いをしてしまったら、元も子もないよね」
自分を不幸にする男の自己満の世界
”結婚できない女”が、”別れられない女”への道を辿るのもよくある話。
32歳になる貢子さん(仮名)は、33歳の彼と付き合って、かれこれ10年が経ちました。
地方から上京し、学生生活を送っていたときに、1歳年上の彼と出会います。東京にある超名門大学出身のエリート。見た目もモデルのようにカッコよく、友人にも女性にも優しい性格で、人気もあります。そんな彼と付き合い始めたのは、彼が大学4年生のときでした。
二人は、彼の一流企業への就職を機に結婚を前提とした同棲を始めます。彼女は結婚したらいつでも辞められるようにと、就職せずに飲食店でアルバイトを始めました。
しかし、その1年後。彼が突然、会社を辞めるのです。理由は、
「自分のような能力が高い人間のする仕事じゃない。もっと上を目指して違う仕事がしたい」
貢子さんは、彼の言葉を信じて、アルバイトを掛け持ちするようになります。
しかし、彼は1年間、まったく仕事をしないまま。その間、昼間は家の中でゴロゴロして、夜になると情報収集と称して大学時代の友人と飲みに行く。お金は、貢子さんが出すようなことはありませんでしたが、親からのお小遣い。彼の実家はかなりの資産家で、仕事を辞めると同時に、学生時代とほぼ同額の仕送りをしてもらっていました。
そして、1年間プラプラして、ようやく就いた仕事が飲食店のアルバイトでした。
「きちんとした仕事に就くまでのつなぎだよ」
というのが彼の言葉です。貢子さんは「大丈夫かな…」と、不安に思いつつも、まだまだ年齢的にも若い二人です。就職難ということもあり、なによりも、「彼は将来きっと大きな仕事をする男だ」という、期待もありました。
経済的にも、とりあえず、食べていくには十分です。深くは考えていませんでした。
そういう生活が4年間続きました。彼は28歳。貢子さんは27歳です。
「この人はいったいいつになったら就職するのだろう?」
そう思いつつも、貢子さんは直接、彼に問いただすようなことはしませんでした。現状にはそれなりに満足していたからです。相変わらず、不景気で就職難です。でも、彼は常に明るく、優しくて、アルバイトとはいえ、仕事に対しては常に真面目でした。
ただ、親の仕送りは続いています。そのお金を全て遊興費に使っていました。趣味嗜好がブランド好きなので、高い服を買い、けっこう高いお店にご飯を食べに行く。しかも、飲み会のたびにみんなにおごる。
「せこい男はダメだ!」
「身だしなみは大切だよ。それなりの場所に出かけることもこれくらいの年齢になったら大切なことなんだ」
そうです。彼は、とっても見栄っ張りなのです。だからというわけではありませんが、貢子さんにお金を出してももらうようなことは決してなかったそうです。
だから、貢子さんの彼に対する印象は、ずーっと、
「自分のことはとっても大切にしてくれるんです」
しかし、ついに、決断の時が訪れます。彼が、アルバイトを辞めたのです。理由は、
「社員になれと言われた。そしたらさ、アルバイトより給料が低いんだよ。ありえないよね。そもそも、俺があんな店の社員になるわけないじゃん。俺の学歴を知ってんのかっつうんだよ!」
飲食店側は、4年間の彼の働きに対しての功績としての三顧の礼を持って社員として迎えようとしたのですが、彼は逆に憤慨して、辞表を叩きつけてやったと貢子さんに息巻いたのです。
これには、さすがの貢子さんもあきれ、同棲を解消し、部屋を出て行ったのです。
「そこまでプライドだけの人だとは思わなかった。別れましょう」
そう言って。
見栄をはることは、時と場合によっては大事だと思います。
しかし、それは、あくまで、自分の度量範囲内におさめておかなくてはなりません。プライドも同じです。
見栄もプライドも男には必要な時がある!
たしかにそうですが、それは、
あくまで、自分の度量を見極めたうえで、そのマックスを超えてはいけないのです。それを超えてしまうと、必ず歪みができて、そこからほころびが目立つようになり、自分を保つことが難しくなります。
そこから先の見栄やプライドは、ただただ自分を不幸にしていきます。
自分を不幸にする女の自己満の世界
貢子さんの引越し先はルームシェア。彼のほうは、同棲していたマンションで男友達とルームシェアという形で新生活が始まりました。
しかし、彼は、何事もなかったかのように、貢子さんに電話をかけ、
「明日の休日はどこに行く?」
「来週の土日はどうしようか?なにかおいしいものでも食べに行こうか?」
そう言ってきます。貢子さんも三行半を突きつけたとはいえ、彼のことがまだ好きでした。会いたくないわけではありません。それから、休日には必ず会うという関係になっていきました。
「わたしも他に好きな人はいないし、とにかく彼は優しいので。でも、彼に好きな人ができたら、わたしはそのままフェイドアウトしようかなって思ってたんですけど…」
そのままズルズルと2年間。気がつけば、貢子さんは30歳になっていました。彼はあいかわらずアルバイト生活を続けています。
「俺はこのままで終わる人間じゃないから。まあ、見ててよ。絶対に貢子に恩返しするからさ」
会えば、威勢の良い言葉ばかり。あいかわらず、高そうな服を着て、高い店ばかりに食事に行きます。仕送りもずっともらっていると、悪びれるでもなく話すそうです。
でも、貢子さんも30歳。さすがに焦りを感じていました。
「わたしたちはこのままどうなっていくんだろう?」
思い切って、彼に聞いてみます。
「ねえ、わたしたちって付き合ってんの?」
「えっ?どういう意味?付き合ってるじゃん」
「恋人同士なの?」
「恋人同士だよ」
「これからどうなるの?わたしたち」
「俺はずっとこのままがいいな〜。別に結婚にこだわる必要はないと思うな〜」
「そうか…」
やはり、貢子さんもこれ以上、話をすることができませんでした。このままは嫌だけど、別れるのもやっぱり嫌だからです。
でも、二人にはもっと重大な問題がありました。それは、
「同棲を解消してから、身体の関係が一度もないんです。それなのに、付き合っているって言えますかね〜」
「それは…、言えないと思うよ。だったら友達だよね」
「そうですよね。そう思うんですけど…」
「別れる以外、道はないと思うよ。貢子さんはどうなの?好きなの?身体の関係がなくても平気なの?」
「彼のことは好きなんです。でも、身体の関係がなくても、それはわたしも全然大丈夫なんです。彼に対してはもうほとんどそういう感情はなくて…。だから、どうすればいいんだろうって…」
「じゃあ、お互い様だね。二人は似すぎているんだね。姉と弟みたいだし」
「彼に他に好きな人ができてくれるといいんですけど…。そうすれば、別れられるんです」
「貢子さんが、他の人を好きになればいいじゃん」
「わたしが他の男性を好きになることはないですから」
「彼もそう思ってんじゃない?」
あれから、2年が経ち、二人が知り合って10年が経ちました。なにも変わらないだろうな〜っと確信を持ちつつも貢子さんに聞きました。
「彼とはどうなった?」
「すみません。なんにも変わっていません」
「彼、仕事は?」
「アルバイトを転々としていて、あいかわらず金遣いも荒くて、親からの仕送りも続いているそうです」
「今でも、『俺は成功する』って言ってるの?」
「はい。でも、なにをやりたいというのはないみたいで」
「身体のほうは?」
「ありません」
「彼とは込み入った話はしたの?」
「はい。半年前、彼に言ったんです。『もうこれ以上、この関係を続けるのは無理。お願いだから別れて』って。そしたら、『貢子を愛してる。お願いだから別れないでくれ』って、泣かれました」
「でも、結婚はできないと?」
「はい。「絶対に成功するから待ってくれ』って」
「で、どう思った?」
「この人、わたしがいないと本当にダメなんだって思いました。仕方ない。支えていこうって」
「もう母と子の関係だね。それ、最悪の判断って自分で気づいてるよね」
「はい。でも、彼に好きな人ができてくれたら、わたしはいつでも身を引く準備はできているんですよ」
「貢子さん、他に気になる男性いないの?」
「いません」
「そうか…。似すぎているんだね」
わたしは、こう思います。
「彼に好きな人ができてくれたら……」という、言葉を盾(たて)に、自分の本心を二人の関係に寄せ付けないようにしている。
もし、仮に、彼が貢子さん以外の女性を好きになったら、素直に身を引けるでしょうか?彼の就職が決まったとたんに、「他に好きな人ができたから、貢子の希望通り別れてあげるよ」そう言われたら、「おめでとう。じゃあ、お別れだね。今度はちゃんとしてね。その子はわたしのようにしないでね」と、素直に言えるでしょうか?
それこそ、「これまでの人生が無駄だった」って、ことになりませんか?
はっきり言ってしまうと二人の関係は、いまや腐れ縁です。恋愛関係が腐ってしまったから、姉や弟、母と子のようないびつな関係が出来上がってしまいました。
でも、二人は姉弟じゃないし、母息子ではありません。残念ながら、友達関係でもない。
やっぱり、恋愛関係なのです。でも、決して健全とは言えない。
そして、一番、貢子さんにとって、よくないのは、この不健全な関係の責任は彼にあると思っていることです。
だから、「彼に好きな人ができてくれたら…」とか、「わたしが支えていく」と、言った、一歩引いた発言が出てくるのです。
当事者なのに、彼と貢子さんの関係には、登場人物は二人しかいないのに、無理に「他に好きな人ができてくれたら…」とか、どこにもいない第三者を登場させて、自分は、「不健全な恋愛当事者ではない」と、自分に言い聞かせて、「自分は間違ってない」と。
自分が決断すれば、話は簡単なのに、自分では何一つ決めず、何一つ決断できない彼に全て委(ゆだ)ねてしまっているのです。
いつか必ず訪れるであろう、”別れ”に対して、自分の心だけは守りたい。
たしかに、何度か、「別れよう」そう言って、自分から決断して行動を起こしました。
でも、貢子さんは本当に別れるつもりだったのでしょうか?
彼が、「別れたくない」と、いうことを見越して、彼の気持ちを確認したいがためだけに、そう言ってみただけなのではないでしょうか。もしくは、
「わたしは言ったから。それでも、別れたくないと彼が言うから付き合ってあげている」
そういう、プライドを保つことが、貢子さんの心のバランスをとり続ける唯一の手段だった。
そういうことなのではないでしょうか。
いづれにしろ、このままでは、彼も貢子さんも、行き着く先は、本人たちだけでなく、誰もが知っての通り、
”別れ”
です。
そして、その別れは、いま以上に貢子さんの心も、二人の心も傷つけるでしょう。
現状、自分を保っている”自己満”ですが、最終的には、自分を最も傷つける”凶器”となるでしょう。
でも、わたしは、この話を貢子さんにしませんでした。貢子さんもわかっているからです。わかっていても、このまま行くしかないと、思い込んでいます。
ここまで、思い込みの強い人にいま、こういうことを言うと、逆に反作用に働く可能性が高いでしょう。
悲しい話ですが、仕方ありません。
その先に待っているものは、あとは、他人をも不幸にする自己満の世界だけです。
(執筆者:心の冷えとりコーチ 風宏)
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